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連載・特集

[ウクライナ侵攻 被爆地の視座] ICAN(アイキャン)国際運営委員 川崎哲さん(53)

核禁止条約 参加決断を

 ロシアのウクライナ侵略で起きた今回の戦争は、核兵器の全面禁止と廃絶の必要性を浮き彫りにした。欧米の「核同盟」である北大西洋条約機構(NATO)諸国とロシアは直接戦火を交えていないが、触発の恐れは続く。核兵器が使用される危機に世界が直面する今、被爆国の首相を選出した被爆地の訴えの重要性も高まっている。

 核兵器廃絶へ国際社会を導くためには、6月にオーストリアである核兵器禁止条約の締約国会議はとても重要となる。核兵器の使用リスクとその非人道性に警告を発する宣言文などが出ることを期待する。

 ただ、世界では禁止条約と逆行する動きも広がっている。例えば、北欧フィンランドとスウェーデンはNATO加盟に意欲を示し、ベラルーシは核兵器を持たないと定めた憲法の改正が国民投票で承認された。こうした現状に対処するため、条約第12条が掲げる条約への参加促進が会議のテーマの一つになるだろう。

 核兵器の脅威を目の前にしている今、各国の姿勢が問われている。その上で、禁止条約の成立に大きく貢献したメキシコの歴史から学ぶ意義は大きい。同国は広島と長崎に原爆を投下した米国に隣接し、1962年のキューバ危機でも核戦争に近づく緊張の高まりを間近にした。この経験を踏まえ、メキシコはラテンアメリカ諸国とともに60年代に非核兵器地帯条約をつくり、非核の道に進んだ。

 一方、被爆国日本では米国の核兵器を共同運用する「核共有」政策が議論に上り、政府は禁止条約に背を向ける。ウクライナのゼレンスキー大統領の国会演説を思い出してほしい。大統領が武器供与ではなく復興支援などを強調したのは、平和憲法や非核三原則を持つ被爆国であることを踏まえてだろう。こうした国際社会の評価を踏まえ、日本は核兵器を許さない国際制度づくりやその支援に注力するべきだ。

 日本が締約国会議にオブザーバー参加するかどうかは、広島1区選出の岸田文雄首相の政治決断にかかっている。97年に日本が調印し、政府内には慎重論があった対人地雷禁止条約は、当時の小渕恵三外相の決断で実現した。「聞く力」を自負する岸田首相は、参加を求める声を十分に聞いてきたはずだ。決断してほしい。

 決断を促すためにも広島から大きな声を上げ続けてほしい。岸田首相を選出した被爆地広島の人々の声は世界にとっても重大だ。(聞き手は小林可奈)

かわさき・あきら
 68年東京生まれ。東京大卒。非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)では、副代表や共同代表などを歴任。NGOピースボート共同代表も務める。

(2022年5月7日朝刊掲載)

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