×

社説・コラム

天風録 『終末の日の飛行機』

 操縦席以外に窓がないという。核戦争時に上空から軍を指揮するロシアの政府専用機だ。その名も「終末の日の飛行機」がきのうの軍事パレードでモスクワ上空を飛ぶ予定だったが、悪天候を理由に見送られた▲ネットを検索すると、窓がないのは核爆発の閃光(せんこう)から搭乗者の目を守るためとあった。だが実際は、閃光を浴びた地上の惨状から目を背けるためではないのか。機上の為政者が、核の使用をためらったりしないように▲飛行中止が、核兵器使用も辞さないと繰り返すプーチン大統領の心変わりを示すとは考えにくい。ただ、全世界が注目したきのうの演説では、核使用に触れずじまい。もっとも、ウクライナ侵攻をやめるとも口にしなかったが…▲それにしても、ロシア軍はひどい。病院や駅、劇場、住宅では飽き足らないのか、学校も空爆対象に。「ナチスが復活しないように」と大統領は侵攻を正当化するものの、説得力はない▲演説には「祖国の未来のために戦ってくれている」と前線をねぎらう言葉もあった。それを言うなら、むしろ全面撤退し、祖国の未来を担う若者兵を家に帰してはどうか。「終末の日の飛行機」が飛ぶ姿も戦争も、誰も見たくない。

(2022年5月10日朝刊掲載)

年別アーカイブ