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社説・コラム

社説 ロシアの戦勝記念日

身勝手な主張許されぬ

 ロシアはきのう、旧ソ連時代の第2次大戦での対ナチス・ドイツ戦勝記念日を迎えた。プーチン大統領は式典での演説で、ウクライナ侵攻について「唯一の正しい決定だった」と改めて正当性を強調した。過去の戦争と重ねて国民に支持を訴えたが、到底容認できない。ウクライナを侵略する側に回った今の戦いに正義はない。

 当初は戦勝記念日に「勝利宣言」をもくろんでいたとみられる。だが2月24日の侵攻開始から2カ月以上が過ぎても、東部2州の完全制圧はウクライナ側の徹底抗戦でかなわず、一進一退の戦況が続く。プーチン氏の厳しい表情とも無関係ではあるまい。

 プーチン氏は「ナチスを復活させないための戦い」とも述べた。しかしウクライナで繰り広げているのは市民の殺害や病院、学校など民間施設への攻撃で紛れもない戦争犯罪だ。身勝手な主張と、核兵器の使用をちらつかせる威嚇は許されない。

 ナチス・ドイツとの戦いで旧ソ連の犠牲者は約2700万人ともいわれる。多大な犠牲を払って成し遂げた77年前のファシズムへの勝利は、社会主義に代わり、今やロシア国民統合の基礎になっている。

 とりわけプーチン氏は戦勝記念日を、軍事力の誇示や政権の求心力を高める手段に使っている。2014年にウクライナ南部クリミア半島を強制編入して以降、演説は東方拡大する北大西洋条約機構(NATO)に対し、核兵器を含む軍備増強で対抗する姿勢を示す場となった。

 今回の演説でも、NATO側がウクライナに最新兵器を提供し脅威を与えたと批判。新たな安全保障の枠組みについて対話を望んだが、欧米側は「耳を貸さなかった」と強調した。

 懸念に応えなかった欧米側に戦火の責任があるとの決めつけである。ロシア軍による民間人虐殺も否定している。

 プーチン氏は侵攻を従来通り「特別軍事作戦」と表現した。国家総動員に道を開く「戦争」状態を宣言するのでは、との観測があった。今後の展開にも触れずじまいだった。戦況に余裕がないことの表れなのか、それとも矛を収める余地を残したのか。さまざまな見方が広がる。

 日米欧の先進7カ国(G7)首脳は、ロシアの戦勝記念日に先立って開いたオンライン会合で、ロシアへのエネルギー依存脱却に向けてロシア産石油の禁輸に取り組むと表明した。一致して制裁をさらに強化し、ウクライナへの軍事支援を継続する姿勢を示して、ロシアをけん制した。

 安全保障理事会など国連が十分機能しない今、ロシア対応をリードできるのはG7しかないのが現実だ。資源を輸入に頼る日本は禁輸に難色を示してきたが、段階的に進めることで足並みをそろえた。

 岸田文雄首相が「G7の結束が何よりも重要なときだ」と訴えたのは当然である。しかし制裁強化で原油価格の高止まりが長期化する恐れもある。国民への丁寧な説明が欠かせまい。

 事態は長期化が避けられない様相を呈している。プーチン氏に侵攻が失敗だと認めさせ、停戦や軍撤退に踏み切らせるため、国際社会はロシアへの制裁とウクライナへの連帯を一層強化する必要がある。

(2022年5月10日朝刊掲載)

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