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在外被爆者 助成増額 医療費上限 年内見直し 厚労相方針

 田村憲久厚生労働相は1日、海外に住む被爆者に助成している医療費の上限額(現在は年約18万円)を引き上げる方針を明らかにした。被爆者援護法に定める医療費の全額支給規定を在外被爆者にも適用すべきだとした大阪地裁判決を踏まえた措置。政府は援護法を改正せず、それとは別に在外被爆者を対象にした現行の助成制度の見直しで対応する。具体的な見直し策は年内に決める。

 被告の大阪府の松井一郎知事は厚労省の方針を評価し、「判決を受け入れた場合、法改正が必要になり救済に時間がかかる」と指摘。府は同日、大阪高裁に控訴した。一方、国家賠償請求を棄却された原告代理人の弁護士もこの日、大阪市内で記者会見し、控訴する考えを示した。

 援護法は、国内の指定医療機関で治療を受けた被爆者に医療費の自己負担分を全額支給すると規定。被爆者がやむを得ない理由で、指定医療機関以外で治療を受けた場合も支給を定めている。

 しかし、厚労省は在外被爆者について「外国では医療保険制度など体制が違う」と支給の対象外にし、援護法とは別に医療費の助成制度を導入している。このため、日本に暮らす被爆者と在外被爆者との格差が問題になっていた。

 厚労省は、医療費が引き上げ後の上限額を超えた場合の対応も検討する。レセプト(診療報酬明細書)など診療内容が分かる書類を提出すれば、日本で治療を受けた場合の基準に当てはめて医療費を支給する方針でいる。

 田村厚労相は記者会見で「全ての在外被爆者に納得いただけるような方向性を模索している」と強調。国・地域によっては被爆者が書類を入手することが困難なため、利便性も考慮して制度を見直すとした。

 厚労省によると、在外被爆者は約4450人(3月現在)。2012年度に制度を利用したのは約3100人で、計約4億円を支給した。上限額を超えたのは約3割の約950人だった。

 松井知事は判決翌日の10月25日に「控訴しない」と明言したが、その後、国が早期に支給制度を確立する方針を示せば控訴する可能性もあると姿勢を転じていた。(藤村潤平)

(2013年11月2日朝刊掲載)

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