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社説・コラム

[歩く 聞く 考える] 沖縄の米軍基地 国外移転は可能 世論変えたい 東京工業大大学院准教授 川名晋史さん

 15日に本土復帰50年を迎える沖縄は米軍基地問題に翻弄(ほんろう)され続けてきた。基地集中の理由は米軍の事情や地政学的な要素とされてきたが、とても納得できるものではなかろう。沖縄の負担軽減はできないのか。世界にまたがる米軍基地の比較研究に取り組む東京工業大大学院准教授の川名晋史さん(42)=国際政治学=に聞いた。(論説委員・吉村時彦、写真も)

  ―米軍基地を横並びで比較する意義は何なのですか。
 沖縄を巡る研究はとても多いのですが、国外の基地と比較するものはわずかです。基地の運用方法も各国で違うのにほとんど知られていない。これを研究、分析することで、在日米軍基地の問題を解決する糸口にしたいと考えました。

  ―日本と海外の基地運用でそんなに違いがあるのですか。
 例えば地位協定です。他国では基地の場所まで決められていますが、日本ではどこにでも基地が置けます。だから基地移転問題も存在するのです。敗戦直後に結ばれた協定ですから、当時の日本の弱い立場を反映した内容になっていると言えます。

  ―国土面積の1%にも満たない沖縄に米軍専用施設の7割以上が集中する理由は何ですか。
 基地への反発は当然ながら本土側でも強かった。米軍は反基地運動の高まりを受けて、本土の基地機能を復帰前の沖縄に持っていったのです。基地の存在を見えにくくするために本土から遠ざける狙いがありました。

  ―だから沖縄は基地を押し付けるなと怒っているのですね。
 そうです。ただ基地を本土に戻すのであれば、結局はたらい回しにしかならない。沖縄の人たちは基地を本土に戻せばそれでいいとも思ってないでしょう。本土側にも申し訳ない思いはある。でも、いざ自分の所に来ると困る。だから基地を本土に戻すのではなく、国外移転を目指すべきなのです。

  ―実現できるでしょうか。
 すぐ答えにはならなくても解法にはなるのでは。国外移転なら本土も沖縄も足並みをそろえられる。この点が重要です。北大西洋条約機構(NATO)内ではスペインの基地がイタリアに移されたケースもあります。そうした事例を知れば、国外移転なんて無理だという世論も変わるのではないでしょうか。

  ―ロシアのウクライナ侵攻で沖縄の基地機能はむしろ強化するべきだという声もあります。
 確かに国外移転で日本の防衛が手薄になったらどうするんだという懸念はあるかもしれません。しかし米国の安全保障戦略は「点」ではなく「面」なのです。米軍は沖縄から、極東、アジア太平洋地域全体を見てます。韓国や豪州、グアムなどにも基地はあり、沖縄の機能を減らしても、どこかで補う多国間の枠組みがあります。既に海兵隊は分散されていますし、フィリピンの基地は撤去されています。

  ―現在の福岡空港である板付飛行場(福岡市)も返還されていますね。
 朝鮮半島の安全保障に極めて重要な役割を持つ施設でした。しかし戦闘機墜落などで反基地運動が高まり、米軍は復帰前の沖縄に機能を移しました。軍事的重要性が高くても撤去が実現できた、こうしたケースもあったことを知るべきです。

  ―その代わりに普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の機能が強化されました。
 実は米軍は1960年代には普天間撤去を計画していたのです。にもかかわらず海兵隊中心の基地構造は固定化され、名護市辺野古の新基地建設を含めて問題が停滞してしまったことは不幸です。安全保障は国家間の取り決めが基本でしょうが、地元への配慮は必要です。

  ―沖縄県の玉城デニー知事は、日米両政府に県も加えた協議の場の創設を求めています。
 デンマーク領グリーンランドでは米国とデンマーク政府に加え、グリーンランド自治政府も協議に参加しています。自治政府が加わることで基地問題は安定しています。沖縄の不満や不信を受け止めるためにも参考になる例ではないでしょうか。

かわな・しんじ
 北海道生まれ。青山学院大大学院博士後期課程修了。近畿大法学部講師、平和・安全保障研究所客員研究員などを経て17年4月から現職。著書に「基地問題の国際比較―『沖縄』の相対化」など。20年発刊の「基地の消長1968―1973 日本本土の米軍基地『撤退』政策」(勁草書房)は日本防衛学会猪木正道賞特別賞を受賞。神奈川県在住。

■取材を終えて

 沖縄に基地が集中する現実は理不尽としか言いようがない。普天間廃止などが停滞する中、若き研究者の主張する国外移転論には可能性を感じる。まず私たち国民がその意識を共有したい。そうすれば政府は動かざるを得ないという指摘にははっとさせられる。

(2022年5月11日朝刊掲載)

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