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社説・コラム

社説 尹大統領就任

日韓関係改善の契機に

 韓国の第20代大統領に保守系の尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏がきのう就任した。日韓関係は歴史問題を発端に、国交正常化以降で「史上最悪」といわれるまでに冷え切っている。5年ぶりの政権交代を契機に、日韓ともに歩み寄って改善しなければならない。

 尹氏は外交政策を大きく転換する。革新系の文在寅(ムン・ジェイン)前政権のとった北朝鮮への融和路線をやめ、米韓同盟をベースに圧力を強める姿勢を示す。日本を含む3カ国の連携も重視している。

 東アジアでは中国、北朝鮮の軍事的な脅威に加え、折しもウクライナ侵攻でロシアの脅威も再認識せざるを得なくなった。国際秩序も脅かされている。多国間の協調を重視する姿勢は時宜を得ている。

 尹氏は就任演説で北朝鮮に対し、核開発の中断を求め「実質的な非核化」に転じるなら北朝鮮の経済を改善させる大胆な計画を準備すると述べた。「対話の扉を開けておく」と配慮も見せた。かじ取りを注視したい。

 北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を繰り返し、核実験の再開まで準備しているとされる。前政権は金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記に譲歩し、期待した非核化で何ら成果を得られなかった。体制の維持や制裁解除を狙う金氏による軍事依存のエスカレーションを招くことを繰り返してはならない。

 尹氏は、外相と、外交・安全保障政策の司令塔となる大統領府の国家安保室長に米国通の人材を登用し、米国に軸足を置く姿勢も明確にした。前政権は中国とのバランスを重視しており、この点も切り替えた。

 北朝鮮に非核化を求める日米韓の足並みがそろうことを期待したい。米政権は2月に公表したインド太平洋戦略で日本や韓国との同盟強化を掲げ、バイデン大統領は今月下旬、就任後初めて韓国と日本を相次ぎ訪れて首脳会談を予定する。連携を再スタートする機会にしたい。

 そのためにも急がれるのは日韓関係の改善だろう。対面での首脳会談は2年以上開かれず、トップ同士が往来を繰り返すシャトル外交も、2011年を最後に止まったままだ。

 元徴用工や元慰安婦を巡る歴史問題にとどまらず、韓国海軍艦船による自衛隊機への火器管制レーダー照射や、韓国に対する半導体関連品目の輸出規制と、ぎくしゃくした。協力できるはずの安全保障や経済分野にまで亀裂は広がっている。

 尹氏は改善への強い意思を示している。歴史、経済、安保の懸案は絡み合っており、包括的に解決したいとの考えを示す。きのうは岸田文雄首相の特使として就任式に出席した林芳正外相と会談し、関係改善に向けて緊密に意思疎通したいと伝え、首脳会談の早期実現を口にしたという。

 トップ間の信頼関係を築くのが何よりである。歴史問題で双方の主張は平行線をたどるが、対話を惜しんではならない。ただ、韓国の国内事情を念頭に置いておく必要がある。

 韓国国会は革新系の最大野党が過半数を握り、政権基盤は不安定である。激戦だった大統領選のしこりは残り、若者の失業率も課題となる中、優先して経済政策に取り組むことになるだろう。内向きの対応策に腐心するあまり、外交の初心を忘れないようにしてほしい。

(2022年5月11日朝刊掲載)

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