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映画 アオギリにたくして 広島きょう公開 故沼田鈴子さんモデル

 広島市中区の平和記念公園にある被爆アオギリの下で被爆証言を続けた故沼田鈴子さん。その生きざまを映画にした「アオギリにたくして」が2~8日、中区のシネツイン本通りで上映される。「彼女がまいた平和の種を若い人にも根付かせたい」。制作陣の願いがこもる。(松本大典)

 映画を企画したのは、27年前から沼田さんを知る中村里美さん(49)=東京都=と、伊藤茂利さん(59)=神奈川県=の両プロデューサー。被爆者の体験を語り継ぐ「ピースライブ」で全国を巡る音楽仲間だ。里美さんの兄で作家の中村柊斗(しゅうと)監督(51)=東京都=が脚本を編んだ。

 22歳で被爆し、左脚を失った沼田さん。同じように原爆で傷つきながら新芽をのぞかせたアオギリに身を重ね、力強く生き抜く姿をドラマ仕立てで見せる。「希望を描きたかった」と里美さん。

 物語は現代を起点に展開する。東日本大震災の被災地で植えられる被爆アオギリの子孫。居合わせたフリーの女性記者がいわれをひもとくなかで、一人の被爆女性にたどり着く。中村監督は「若い人は、原爆の話を昔のことと捉えがち。仕事や私生活の悩みも抱えた記者の目線で、今と昔をシンクロさせたかった」と狙いを説く。

 昨年8月6日のクランクイン後、監督の交代と撮り直しを余儀なくされ、1度はつぶれかけた。5千万円の借金を抱えて撮影を続行。広島出身の風見しんごや原日出子、斉藤とも子ら、脚本にほれ込んだ俳優、スタッフの心意気が宿る。

 2011年7月に87歳で亡くなる直前、震災による福島原発事故後の対応を嘆いた沼田さんは、「死ぬのは簡単だけど、生きて伝えなきゃ」と拳を立てたという。その意志を継ぐ物語は、小説や舞台にもなる。「映像や活字で感動した人が、次は自ら演じる。そんなふうにつながってほしい」。上映期間中は連日、プロデューサーらが舞台あいさつに立つ。

(2013年11月2日朝刊掲載)

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