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社説・コラム

社説 経済安保法成立 慎重運用が求められる

 岸田文雄首相が重視する経済安全保障推進法がきのう、参院本会議で可決、成立した。半導体など戦略物資の国内生産や海外調達を強化したり、生活に不可欠なインフラが止まらないよう政府が企業をチェックしたりする制度を盛り込んでおり、来春から段階的に施行する。

 経済安全保障は、防衛力を中心として国益や国民の生命、財産を守る安全保障に、経済政策や企業活動を結びつける考え方。政府はハイテク分野で台頭する中国などを念頭に置いて強化を図る方針だ。

 そのための法律なのに実態は企業の情報管理を強化する色合いが濃い。規制の対象は国会の審議が不要な政令や省令で今後決めるとしており、企業活動への影響は曖昧なままだ。政府の関与は最小限にとどめるべきで、慎重な運用が求められる。

 経済安保法は、①半導体や医薬品などのサプライチェーン(供給網)強化②サイバー攻撃を防ぐための基幹インフラの事前審査③国の競争力を左右する先端技術開発での官民協力④核や武器の開発につながる特許の非公開―を4本柱とする。

 非公開の特許を漏えいするなどした場合に最大で懲役2年を科す罰則が導入された。供給網強化の対象となる「特定重要物資」の調達先を隠したり、基幹インフラと位置付ける鉄道や電力、情報通信など14業種で、設備を製造した国を偽ったりした場合も罰則の対象になる。

 民間人が対象となる機密情報の資格制度「セキュリティー・クリアランス」は、身上調査に慎重な意見があり見送られた。

 米国と中国の覇権争いやロシアのウクライナ侵攻で国際情勢は緊迫度を増す。半導体不足やサイバー攻撃、エネルギー確保への懸念など、さまざまなリスクが表面化している。戦略物資の安定供給を図り、技術流出を防ぐのは政府の責務である。

 気掛かりなのは規制の範囲と手法だ。特定重要物資の品目や、基幹インフラで調査対象となる事業者や設備などはいずれも成立後に政省令で定めるとされ、その項目は約130にも及ぶ。経済界が恣意(しい)的な運用や、規制で強いられる新たな負担へ警戒感を強めるのは当然だ。

 さらに、官民技術協力や特許非公開は軍事技術の開発と流出防止に力点が置かれた印象が拭えない。人工知能(AI)や量子などの分野ごとに「官民協議会」を設け、政府が財政支援して研究開発を進めるという。小林鷹之経済安全保障担当相は「防衛装備品に活用されうる」と述べており、こうした観点からの要請が増える懸念がある。

 参院選を控えた今国会の注目法案とされ、審議ではこうした問題点の洗い出しが期待されたが、消化不良は否めない。

 政府側は答弁で「予断を持って言及できない」などと説明を避ける場面が多かった。議論の材料を出し惜しみした印象だ。規制と自由な経済活動の両立などを政府に求める付帯決議を条件に、野党第1党の立憲民主党、日本維新の会、国民民主党が賛成に回った。

 政府は政省令の制定に関する基本指針づくりに当たり、付帯決議を最大限尊重する必要がある。経済界や有識者の意見を参考に政府の関与の範囲をはっきりさせ、国民への情報公開に努めて透明性を高めるべきだ。

(2022年5月12日朝刊掲載)

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