×

社説・コラム

『記者縦横』 軍拡より緊張の緩和を

■編集委員 東海右佐衛門直柄

 連載を終えたのだけれど正直、後悔が残っている。

 「憲法と暮らし」と題した企画を同僚2人と展開した。日常生活の中で憲法の在り方について考えてもらう内容にしたいと議論を重ねた。新型コロナウイルス禍での生活苦や、原発問題、外国籍児童の就学問題などを取り上げた。

 しかし、暮らしに直結する重要なテーマをやり残したように感じる。「敵基地攻撃能力」についてだ。

 ロシアがウクライナに侵攻して以来、「日本も攻撃されたらどうなるの?」との懸念が急速に広がる。自民党は、敵国がミサイルを発射する前に日本が相手基地を攻撃する能力を備えるよう求めた。批判が出ると名称を「反撃能力」に変えて提言を決めた。憲法9条に基づく、専守防衛から逸脱するとの声がある。

 日本を取り巻く環境は激変しており、新たな対応を求めたくなるのも分かる。

 だが日本が軍事力を増やせば安全になるだろうか。ウクライナ侵攻でロシアが悪いのは当然だが、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大が緊張を招いた面も否定できない。軍備拡大の動きは、自国と相手国の緊張を押し上げる。

 大切なのは、互いの緊張を減らす努力だろう。不戦共同体を目指し発足した欧州連合(EU)が、域内での相互信頼と平穏をもたらしたように。

 平和構築は容易でない。ただ軍拡でなく、時間をかけて緊張緩和を進めていく議論と実行力が、今求められているのではないだろうか。

(2022年5月13日朝刊掲載)

年別アーカイブ