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社説・コラム

天風録 『「島唄」よ海を渡れ』

 〽でいごの花が咲き 風を呼び 嵐が来た―。歌い出しの詞にメロディーがすぐ思い浮かぶ人も多いだろう。琉球音階と三線(さんしん)の響きが印象的なザ・ブームのヒット曲「島唄」。ゆったりした節回しは心地よいが、歌詞には裏の意味があるという▲米軍による攻撃の始まりや、ガマで自決を迫られる人々の無念…。県民の4人に1人が犠牲になった沖縄戦を隠れた主題として、悲劇と不条理、怒りが盛り込まれている。口ずさむ時、どれだけ意識しているだろうか▲ボーカル宮沢和史さんは30年前に曲を書き、葛藤を抱えながら歌ってきた。「ヤマトの人間がこの曲を発表していいのか」。沖縄出身でもなく虐げられてきた歴史をよく知らずにきた自分が…。そんな負い目だ。実際に沖縄では反感を抱く人もいたそうだ▲沖縄が日本に復帰して50年。青い海の広がる観光地、癒やしの島などのイメージを持つ人がいるかもしれない。だが悲惨な地上戦を経験し、復帰後も米軍基地の負担を強いられている。現状から目を背けてはいないか▲宮沢さんは先日出した著書につづる。沖縄の人たちこそ癒やされるべきだと。そう願い、歌い続けるのだろう。私たちも考え、自問したい。

(2022年5月15日朝刊掲載)

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