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平和希求と米国重視 岸田首相にとっての沖縄 「基地負担減らす」↔「同盟強化」言及 具体策へ「聞く力」を

 岸田文雄首相(広島1区)は沖縄の本土復帰50年となる15日、現地の記念式典に出席する。初入閣は15年前の沖縄北方担当相。地元の被爆地広島と同じく平和を希求する地に思いを寄せる発言をしてきた。ならば在日米軍基地や日米地位協定などの問題に対し、どんなスタンスを取ってきたのか。専門家からは「米国偏重」との指摘がある。(口元惇矢)

 今月10日、官邸で会談した玉城デニー知事から、宜野湾市の米軍普天間飛行場を名護市辺野古沖に移転する計画の断念や、日米地位協定の見直しを求められた。首相は「県民と意思疎通を図り、思いを受け止める」と述べるにとどめ、具体策には触れなかった。

 議員会館の事務所には沖縄の地酒や民芸品を置く。つながりが生まれたのは衆院初当選の1993年。先輩議員と視察し、基地問題に目を向け始めたという。

 2007年、沖縄北方担当相に就任。当時知事の仲井真弘多(なかいまひろかず)氏との会談で「戦争の悲惨な経験が身近にあり(沖縄と広島で)通じる部分がある」と語った。

 沖縄と向き合うに当たり掲げたのは「現場主義」。07年11月に波照間島を訪れ離島振興策を住民らと語り合う「島のゆんたく会議」を開催。定期航空便の存続などの要望を受けた。

 県民の願いである米軍基地の負担軽減に対してはどうか。13年、外相として初の外交演説では「沖縄の負担軽減を実現する」と訴えながらも、「現行の日米合意に従って」と予防線を張る。首相に就いた昨年10月、衆院本会議での所信表明でも、基地問題に絡め「日米同盟の抑止力維持」が必要だと改めて訴えた。

 昨年末から年明けにかけ沖縄、山口、広島3県で新型コロナウイルスのオミクロン株の感染が拡大。米軍基地からの「染み出し」が指摘された。関係者の検疫は地位協定によって米軍任せで、昨年9月から未検査のまま入国していた。協定改定を求める声に対し、首相は「見直す考えはない」と報道陣に断言。「日米間で意思疎通を図り、現実的に具体的に対応していくことが大事だ」と述べた。

 こうした姿勢に厳しい目を向けるのは沖縄国際大の前泊博盛教授(安全保障論)だ。「国民よりも米国重視の印象すら受ける。具体的な基地負担軽減策を打ち出すべきだ」と求める。

 中国や北朝鮮の軍拡に加えロシアのウクライナ侵攻で、首相の口から日米同盟強化との言葉が増えている。沖縄県民はどう受け止めているか。基地負担軽減を進める上でも首相の「聞く力」が改めて問われる。

「ひろしまの塔」に献花 首相、就任後初の訪問

 就任後初めて沖縄県を訪れている岸田文雄首相(広島1区)は14日、糸満市で、先の大戦で沖縄や、フィリピンなど南方戦線で命を落とした広島県出身者を追悼する「ひろしまの塔」に献花した。

 黒のかりゆしを着た首相は、沖縄県平和祈念財団の担当者と言葉を交わしながら塔に歩み寄り、深々と頭を下げた。「広島出身者も多くの命を落としたという悲惨な歴史を振り返った。われわれは慰霊の気持ちをささげ続けねばならない」と報道陣に語った。

 ひろしまの塔は1968年に建立された。彫刻家で名誉広島県民の故円鍔(えんつば)勝三氏が設計し、3万4635人を追悼する。広島県が毎年、式典を開いている。(口元惇矢)

(2022年5月15日朝刊掲載)

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