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社説・コラム

『書評』 郷土の本 福山空襲の夜にタイムスリップ 川越文子さん18年ぶり児童書「バラ公園のひみつ」刊行

 日本児童文芸家協会会員の川越文子さん(74)=倉敷市=が、18年ぶりの児童書「バラ公園のひみつ」を刊行した。福山をモデルとした「バラ町」で暮らすおばあさんと不思議な力を持つネコがタイムスリップし、1945年8月8日の福山空襲に遭遇する物語だ。川越さんが約40年の創作活動で初めて反戦を主題に書き上げた。

 町内の「バラ公園」を愛猫のシロと散歩するのどかおばあさんは、園内で見掛ける母子3人の銅像が気掛かりでならない。防空頭巾にもんぺ姿で乳飲み子を抱く母、傍らには体をすり寄せる幼子。3人に何が起こったのか、その「出来事を教えてほしい」とシロに懇願する。

 すると、のどかおばあさんは空襲のあった夜のバラ町に瞬間移動。地元の人々に襲いかかる焼夷(しょうい)弾の中、必死に逃げ惑う母子の姿を目の当たりにする。

 川越さんはたびたび福山市中央公園を訪れ、園内に立つ「母子三人像」を見つめてはストーリーを膨らませたという。「戦争で親や子を失った人たちはどんなに心細かったか。そう想像することが、平和への大きな一歩になる」と語る。子どもたちに「日常生活で起こるさまざまないさかいを小さくする。そんなささいな行動の大切さを知ってほしい」と願う。

 川越さんとともに福山で取材した画家坪谷令子さん(兵庫県明石市)が挿絵を手掛けた。文研出版。1320円。(木原由維)

(2022年5月15日朝刊掲載)

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