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修学旅行生向けに証言動画 原爆資料館公開 ユーチューブに被爆者30人分

 原爆資料館(広島市中区)は、被爆体験証言者が修学旅行生に向けて語る様子を撮影し、動画投稿サイト「ユーチューブ」に公開する取り組みを進めている。高齢化で証言が難しくなるのを見据え、同館啓発課が3年前に収録し始めた。新型コロナウイルス禍で修学旅行などが減少する中、さまざまな活用を呼び掛けている。

 「手を握り合った2人の少女の顔が、風船のように膨れ上がっていました」。13歳の時に入市被爆した新井俊一郎さん(90)=南区=が当時の惨状を語る。2019年秋に中学1年生の前で証言した際の約60分動画。今年2月に公開され約800回再生されている。

 広島高等師範学校(現広島大)付属中1年の時、疎開していた賀茂郡(現東広島市)から学校へ向かう途中に原爆が投下された。爆心地から約1・3キロの東千田町(現中区)の母校は、跡形もなく破壊されていた。翌日以降に高熱や吐き気で寝込んだ。「ここで聞いた話を踏まえて、争いがいいか、平和がいいかを決めてください。私からの遺言です―」

 新井さんは10年から広島市の被爆体験証言者として活動している。がん手術や体調不良で以前から入退院を繰り返しており、この4月も講話の依頼を断った。「いつ証言できなくなるか分からない。人の表情や息遣いが伝わる動画でも、体験を継承したい」。中国放送でディレクターなどを務めた経験から、映像に記録して残す意義を胸に深く刻んでいる。

 啓発課は、ウェブ公開を前提に19年3月から証言の収録を開始した。翌20年、新型コロナウイルスの感染が拡大。同館が臨時休館を余儀なくされていた同年4月、ユーチューブで随時公開を始めた。

 昨年4月に急逝した被爆者の岡田恵美子さんの映像も今年3月に加え、現在約千回再生された。計30人分を掲載したが、すでに6人が亡くなり3人が証言活動を退いている。

 市に登録している被爆体験証言者は、5月1日現在で79~94歳の34人。平均年齢は85・9歳。証言者の研修制度を導入した12年度以降は、15年度の49人をピークに減少傾向にある。今後も新たに証言者が加わる限り、撮影と公開を続ける。

 19年度は全国から4597団体が修学旅行などで来館した。20年度が1125団体、21年度は1775団体と回復には遠い。一方、広島行きを断念した県外の学校から「代わりに授業で視聴したい」などと連絡があるという。

 「すでに対面では聞くことができない証言もある。積極的に活用してほしい」と細田益啓副館長。コロナ禍でも広島への関心を維持してもらい、同館訪問につながることを願う。新井さんは「今は誰でもスマートフォンやカメラで撮影して発信できる時代。上手でなくていい。一人一人が、あらゆる手段で記録してほしい」と強調する。ユーチューブチャンネル「広島平和記念資料館啓発課」https://www.youtube.com/channel/UCCtbwwbkOGpOn4uBcDeZ90w(湯浅梨奈)

(2022年5月16日朝刊掲載)

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