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原爆碑 36都道府県に554基 広島大2年生が確認 地理科学学会で発表へ

「慰霊」と「核廃絶への願い」

 全国の原爆に関連した碑の分布や特徴を昨年春から調べている広島大教育学部(東広島市)の社会系コース2年生の4人が、36都道府県に計554基あることを確認した。「建立背景は地域と時期によりさまざま。どれも関係者の思いがこもっている」。21日にオンラインで開かれる地理科学学会の春季学術大会で発表する。(湯浅梨奈)

 調査は、熊原康博准教授(47)=地理学=の教養科目を履修した21人で取り組んだことから始まった。356基を確認した時点で、1年生だった有志4人が引き継いだ。毎週集まってはインターネットや衛星写真利用サービス「グーグルアース」で碑の位置を確認。現時点で広島市の237基、長崎市は128基を把握した。その他は全国に189基。赤田拓哉さん(19)は「被爆地の外にこんなにあるとは予想外」と驚く。

最北は猿払村

 碑は主に「原爆犠牲者の慰霊」と「核兵器廃絶への願い」に分かれるという。広島・長崎両市では、第五福竜丸事件と第1回原水爆禁止世界大会を挟み、1945~79年に慰霊碑が多く建てられた。長崎は「廃絶への願い」の碑が広島よりも多い。一柳真帆さん(19)は「3度目の原爆使用がないことを願う意識が高いのではないか」とみる。

 日本の最南端は、沖縄県石垣市にある「非核平和宣言都市」の碑。全国的にも80年代にできた「廃絶への願い」の碑は多い。米国と旧ソ連に軍縮を迫る機運が高まった冷戦期の84年に「日本非核宣言自治体協議会」が設立されたことが大きかったと推測する。

 一方の最北端は、北海道猿払(さるふつ)村立浅茅野(あさじの)小に83年に建った「願いの碑」。当時の同校教諭が原爆瓦を発掘する広島県高校生平和ゼミナールの活動に共感し、広島市中区の元安川沿いに「原爆犠牲ヒロシマの碑」を建てる資金を寄付したのがきっかけ。お礼に届いた3片の瓦を埋め込んだ碑を校門近くに設置した。

 芳賀重紀校長は中国新聞の取材に「今も地域で知られており、平和学習にも役立っている」と話す。

教材に生かす

 2000年以降にできた碑は少ないことも分かった。原爆についての関心の薄れや、被爆者の高齢化が背景にあると考える。山本健人さん(19)は「多くの人の平和への願いがこもる碑をもっと身近に感じてほしい」と力を込める。さらに調査を続けて、ゆくゆくはその成果をネット公開するとともに、各地で中高生が碑巡りに使うプリント教材の開発につなげたいという。

 4人は、調査を通して「意識が変わった。街中にぽつんと立つ碑が気になります」と口をそろえる。赤田さんは先日、広島市内で路面電車の車窓から何かの碑を見つけて思わず途中下車した。山本さんは、旅行先でも碑に注目する。「北九州市で、知らなかった原爆慰霊碑を見つけました」

 西屋優人さん(19)は「碑の分布の偏りは、地域ごとの平和教育の機会の差も反映しているかもしれない」と話し、教材化への意義を感じている。21日は、研究者や大学院生と並んでの発表。「被爆者の高齢化や体験の風化で放置されている石碑もあることに課題を感じながら研究してきた。緊張するが、しっかりと成果を伝えたい」

(2022年5月16日朝刊掲載)

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