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国、被服支廠を耐震化方針 所有1棟 全4棟保存へ

 広島市南区にある最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」の全4棟のうち、国が所有する1棟を耐震化する方針を固めたことが17日、分かった。所有3棟の耐震化を進める広島県と足並みをそろえる。存廃議論に揺れてきた「物言わぬ証人」は事実上、全4棟が保存される見通しになった。

 複数の関係者によると、国所有の4号棟を管理する中国財務局が2021年度にした建物の詳細調査で、れんが壁やコンクリートの強度は十分あり、崩壊の危険性が低いと判明した。ただ、最低限の耐震補強は必要という。

 このため財務局は周辺住民の安全確保の観点から、耐震補強を含めた安全対策を進める。今夏にも実施設計の入札手続きをする見通しで、具体的な工事の実施方法や保存に伴う利活用策は、県や市と連携して対応する方針という。

 1~3号棟を所有する県は21年5月、耐震性を再調査した結果を踏まえて3棟を耐震化する方針を決めた。1棟当たりの概算工事費は5億8千万円。財務局の調査結果は県の再調査結果とほぼ同じで、1棟当たりの工事費が同規模になる可能性がある。

 県が19年12月に「2棟解体、1棟の外観保存」とする安全対策の原案を打ち出した時点では、国も4号棟の解体を含めて検討していた。被爆者団体などの反発を受け、県が事実上の3棟保存へ方針転換したため、国も追随する方向になった。保存費用の確保や利活用策が今後の課題となる。(河野揚)

旧陸軍被服支廠(ししょう)
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。1913年完成で爆心地の南東2・7キロにある。原爆投下時は被爆者の臨時救護所となった。戦後は13棟のうち4棟がL字形に残り、民間企業の倉庫や広島大の学生寮として使われた。広島県が1~3号棟、国が4号棟を所有している。広島市が94年に被爆建物に登録。95年ごろから使われなくなり、築100年を超えた建物は劣化が進んでいる。

(2022年5月18日朝刊掲載)

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