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社説・コラム

『この人』 海上自衛隊呉地方総監に就任した 伊藤弘(いとうひろし)さん

 対面した年下に、消毒液をすり込んだ手を自ら差し出して握手を交わす。「こちらからアプローチしないと若い人との距離は縮まらない」。3月に就任した海上自衛隊呉地方総監部(呉市)のトップは、威厳はあるが威圧感は漂わせない。

 1999年から2年間、米コロンビア大大学院に留学し、英語も堪能だ。現地の学生が、核兵器の悲惨さを十分に理解せず議論しているように感じたという。「被爆者の話を聞いたり、写真を見たりしたことはあるかと問いかけた。実際に使ったらどんな状況になるか、分かった上で議論しようと訴えた」

 呉での勤務は、2014~16年に第4護衛隊群司令を担って以来。15年には、ソマリア沖で海賊対処活動をする多国籍部隊の司令官を自衛官として初めて務めた。安全保障環境が激変する中、隊員には「伝統の継承と変化への挑戦」を説く。「人口減少社会で人員が保てなくなるかもしれない。ワークライフバランスを保ちつつ、一人一人の生産性を高めたい」

 「海に出る海自は国民から遠い存在」と広報活動に力を入れる。前任の舞鶴地方総監(京都府)時代、ツイッターの投稿を充実させてフォロワー数を倍増させた。呉でも同様に取り組む。「呉と舞鶴の肉じゃが発祥の地論争を再活性化させたい」と思案する。

 千葉県市川市出身。小学生の頃からサッカーに打ち込んだ。「数年前まで職場仲間とフットサルもした。今は骨折すると怒られるから」と、自慢の左足は封印している。呉市内で妻、子ども3人と暮らす。海将。(上木崇達)

(2022年5月18日朝刊掲載)

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