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社説・コラム

天風録 『小国の知恵』

 美食で知られるフランスの大統領がかつて、英国の料理をこう評した。フィンランドの次にまずい、と。世界最悪は北欧の小国というわけだ。確かに、国土の4分の1が北極圏にあり、農業に適した土地は少ない。質素な食事が定番だった▲ただ、今では違う話だろう。30年近く前に欧州連合(EU)の仲間入りして変わってきた。各国の食材が手に入るようになったからだ。1人当たりの国内総生産(GDP)も、日本を上回るほど暮らしが豊かになった▲「近代の出世物語」と他国の歴史家が評するほどの成功ぶりだ。その陰には、小国ならではの悲哀もある。隣接する国に数百年も支配され、独立したのはやっと1世紀余り前。第2次大戦後は隣国ソ連を気にしながら中立を保つ▲モスクワの影響を受けても、支配下にある東欧とは一線を画す。度重なる内政干渉に対し、時には譲歩し、時には説得して押し返した。危うい綱渡りは、小国ならではの知恵のたまもの▲一転きのうは真逆に、かじを切った。北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請した。横暴なロシアに、警戒感が膨らむのは当然かもしれない。とはいえ、小国の知恵まで捨て去らないでほしい。

(2022年5月19日朝刊掲載)

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