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社説・コラム

社説 北欧2国NATOへ 緊張緩和の手段も探れ

 北欧フィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)に加盟を申請した。長らく軍事的中立を維持してきた両国にとって歴史的転換になる。

 ロシアのウクライナ侵攻が契機になったことは言うまでもない。ロシアの脅威から自国を守るためにNATO加盟が欠かせないと判断したのだろう。

 ロシアはウクライナがNATO寄りになることを容認できず侵攻に踏み切った。だが北欧2国の対応をみれば侵攻が完全に裏目に出たことは明らかだ。

 ロシアは誤りを認め、ウクライナから即時撤退すべきだ。国際社会はそれを働きかけつつ、ロシアを和平の舞台に引き戻す努力を重ねなくてはならない。

 フィンランドはロシアと1300キロにわたり国境を接する。19世紀には帝政ロシアに組み込まれ、ロシア革命を機に独立したもののソ連と2回も戦った。領土の1割以上を奪われてもいる。スウェーデンはナポレオン戦争の時代から200年以上も非同盟を貫いてきた。2度の世界大戦でも中立を保ってきた。

 戦争に巻き込まれないために両国が導き出した答えが非同盟なのだろう。その「国是」をウクライナ侵攻後に急速に広がったNATO加盟支持の世論が変えたことは理解できる。

 正式加盟には全30国の賛成が必要だ。通常は1年以上かかる。トルコは反対を表明しており、予断を許さない面もある。

 ロシアは両国が加盟すればフィンランド周辺地域で軍事態勢を強化すると威嚇姿勢を強めている。バルト海でミサイル発射実験を行うなど、核を含む軍備強化をちらつかせているのは断じて許しがたい。

 ただ、求められるのは冷静な対応である。これ以上の軍事的緊張は避けるべきだ。国際社会はロシアへの圧力を強める一方で、長期的な視野に立った収拾策も模索する必要がある。

 ロシアがNATO拡大にどれだけの脅威を感じていたかは判断が分かれる。欧州に再び「鉄のカーテン」が下りるような対立の構図に事態をエスカレートさせてはならない。

 両国が非同盟の立場で果たしてきた非核化や軍縮運動への影響も気がかりだ。NATOに組み込まれれば、北朝鮮の核問題やパレスチナの国家承認などで見せた調停的な役割も失われてしまいかねない。

 両国は核兵器禁止条約の締結国会議にオブザーバー参加する予定だが、非核化を推進する役割はこれまで通り、NATO内でも果たしてもらいたい。

 スウェーデンが加盟手続きを進める一方、国内へのNATOの核兵器配備や軍駐留には反対姿勢も示していることは注目に値する。非同盟の役割を意識した冷静な対応と評価できよう。

 ウクライナ侵攻という暴挙に敢然と立ち向かうことは国際社会の責務だ。ロシアを平和的に翻意させる努力も求められる。

 世界の平和と安定の実現に必要なのは軍事ブロック化ではない。国際協調を模索する外交努力がまず求められていることを国際社会は忘れてはならない。

(2022年5月19日朝刊掲載)

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