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創業113年 手芸店あす閉店 中区猫屋町の堀川芳吉商店 教室やショー 笑顔広げる

 広島市中区猫屋町の手芸用品店「堀川芳吉(よしきち)商店」が21日、明治期の創業から113年にわたり広島の装いに彩りを加えてきた歴史に幕を閉じる。手作りで切り縫いする温かみを伝えてきたが、既製品の浸透や若者世代の手芸離れに、新型コロナウイルス感染拡大の影響が重なった。常連客や手芸教室に通った市民は老舗の閉店を惜しんでいる。(平田智士)

 1909年に堀川芳吉糸店として創業。45年の原爆投下で爆心地から西に約600メートルの同じ場所にあった店舗を失った。疎開していた創業者の堀川芳吉さんがすぐに再建し、4代にわたり歴史を紡いできた。

 縫い糸や針、生地などの手芸用品と服飾材料は中国地方有数の品数をそろえ、同業者からも一目置かれた。70年代からは店内で和洋裁やビーズ、刺しゅう、パッチワークといった手芸教室を展開。受講者が大阪や岡山から新幹線で通うほど人気を集めた。

 69年に3代目社長の利彦さんと結婚した堀川賀江子店長も幼稚園教諭の経験を生かして園児から高校生を対象に「夏休み子ども手芸」を企画。「世界に一つしかない作品が出来上がった時の達成感と笑顔を見るのがうれしかった」と懐かしむ。手芸教室の一環で作品発表のファッションショーを開き、老若男女の笑顔が広がったという。

 一方、近年は既製品が多く出回り、教育現場でも裁縫の時間が減った。さらにコロナ禍で手芸教室が開けない時期もあった。布製の手作りマスクが話題になり一時盛り返したものの、売り上げは減少。従業員の高齢化も進んだため今年1月、閉店を決めた。4代目社長の雅人さん(51)は「全てのお客さんに感謝の気持ちしかない」と話す。

 閉店を知って訪れる客もいて連日にぎわう。20年来の客という西区の長峰順子さん(74)は「豊富な品ぞろえで目当ての物が必ず見つかるお店。残念だ」と惜しむ。堀川店長は「うちは店を畳むことになったけど、人の心を豊かにする手芸文化はこれからも地域に根付いてほしい」と願い、21日午後6時半まで店に立つ。

(2022年5月20日朝刊掲載)

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