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国、所有1棟耐震化発表 被服支廠全棟保存へ 被爆者ら歓迎

 広島市南区にある最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」で、中国財務局は19日、全4棟のうち国所有の1棟を耐震化すると発表した。広島県の3棟と合わせて全4棟が保存される見通しとなり、被爆者や保存運動をしてきた市民団体から歓迎の声が上がった。利活用策が焦点になる。

 財務局は国の4号棟の耐震化工事に向けた実施設計をするため、7月に入札をする。8月上旬までに落札業者と契約し、本年度内に設計を終える予定。着工時期や事業費の見込みは明らかにしていない。

 県が2021年5月に1~3号棟の耐震化を決めたのを受け、財務局は21年度に建物の強度を調査。崩壊の危険性は低いが、震度6~7の地震に耐えられない恐れがあると判明したため最低限の耐震補強をする。

 19年12月に県が「2棟解体、1棟の外観保存」とする安全対策の原案をまとめた段階では財務局も4号棟の解体を検討していた。この日、記者会見した財務局の永井典男管財部長は「状況の変化や被爆者の声を踏まえて判断した」と説明。被爆地の声が全棟保存への道筋を付ける形になった。

 被服支廠で被爆し、全棟保存を訴える市民団体「旧被服支廠の保全を願う懇談会」の中西巌代表(92)=呉市=は「うれしい。被爆体験が風化する中で被爆建物を残すのは重要。核兵器廃絶に役立てて」と喜んだ。近くに住んでいた被爆者の切明千枝子さん(92)=安佐南区=も「戦争を二度と起こさないという反省を込めて全棟を残してほしかった。被爆者の願いが通じた」と感慨深そうだった。

 県は有識者懇談会で利活用策を議論しており、22年度末までに活用の方向性をまとめる予定。これを受けて財務局は4号棟の利活用策を県、市と協議したい構えだ。市民グループ「旧広島陸軍被服支廠倉庫の保存・活用キャンペーン」の瀬戸麻由さん(30)=呉市=は「被服支廠を大切に思う人の声を反映させてほしい」と求めている。(河野揚)

旧陸軍被服支廠(ししょう)
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。1913年完成で爆心地の南東2.7キロにある。原爆投下時は被爆者の臨時救護所となった。戦後は13棟のうち4棟がL字形に残り、民間企業の倉庫や広島大の学生寮として使われた。広島県が1~3号棟、国が4号棟を所有している。広島市が94年に被爆建物に登録。95年ごろから使われなくなり、築100年を超えた建物は劣化が進んでいる。

(2022年5月20日朝刊掲載)

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