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社説・コラム

天風録 『阿木燿子さんの反戦歌』

 反戦歌を初めて書いた作詞家、阿木燿子(あきようこ)さんのインタビュー記事をきのう本紙で読んだ。つけた曲名が「River・2022」。世界の行く末を案じる歌詞はなぜか、川に問いかける▲いにしえの文明の多くに母なる大河がある。飲み水をはじめ、魚や貝などの糧をもたらしたからだ。洪水で流れが変わると、争いの火種にもなった。好敵手の「ライバル」は、元は「川の向こう岸に住む人」を指す言葉だと聞く。川は汗や涙、時には血ものみ込んできたのだろう▲ロシアによるウクライナ侵略で目の当たりにしたのも、国境の川を挟んでの攻防だった。もはや相いれない「世界の宿敵」では…。北の大国を見る目は変わり、地球の隅々へと広がりつつある▲21世紀の今、「ライバル」が目の敵を意味した時代へと後戻りするのだろうか。川の両岸に渡される橋がなくなれば、行き来は途絶えてしまう。今はとても見通せないとしても、いつか心に橋の架かる日が待たれよう▲阿木さんの仕事は、曲をもらって始まる場合が大半という。歌詞はメロディーに息吹を与え、人々が口ずさむ力となる。重苦しく、よどんだ時代の川に「架け橋」となる歌はいくら多くてもいい。

(2022年5月22日朝刊掲載)

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