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広島サミット決定【解説】核廃絶・平和への好機に 編集委員 田中美千子

 歴史的な日が訪れる。来年、先進7カ国首脳会議(G7サミット)が初めて開かれる広島市に、原爆投下国の米国をはじめ、英国、フランスの核兵器保有3カ国のトップが集う。世界が依存を強めつつある核兵器が、みたび人間に使われたら、いかに悲惨な結末をもたらすか。被爆地で胸に刻み、廃絶と世界の平和へ前進する転機としたい。

 77年前のあの日の惨禍を深く刻む衆院広島1区を地盤とする岸田文雄首相は、外相時代を含め各国の首脳に被爆地訪問を働きかけてきた。ウクライナに侵攻したロシアが冷戦期さながらに核使用の脅威を呼び起こす今、広島へ主要国の首脳を招いてサミットを開く意義は国際社会に広く認められるだろう。

 これから問われるのは、首相が語る「核兵器なき世界」を理想に終わらせないため、具体的な成果に結び付けられるかどうかだ。

 ロシアのウクライナ侵攻は、欧米の「核同盟」である北大西洋条約機構(NATO)のさらなる拡大を誘発し、世界の緊張は高まるばかり。北東アジアでは中国、北朝鮮の軍備増強が止まらない。足元の日本でも米国の核兵器を共同運用する「核共有」政策を議論すべきだとの声が政界を中心に依然としてある。

 軍拡から軍縮の流れに転換させるには、被爆地の訴えに頼るだけでなく、その思いに誠実に応えて日本政府が行動を起こす必要がある。6月にある核兵器禁止条約の締約国会議へオブザーバー参加し、8月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議と一貫して被爆国の視座から核の非人道性を説けば、サミットへ廃絶の国際世論を醸成する好機となるはずだ。

 世界が「新冷戦」の様相を深める中、G7での日本の振る舞いをアジアの周辺諸国も注視している。分断ではなく協調を掲げてきた首相の手腕が試される。

(2022年5月24日朝刊掲載)

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