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社説・コラム

天風録 『ガラケーが活躍した日』

 最新の外国製スマホがちっとも役に立たないのに、日本で独自の進化を遂げたガラケーだからこそ活躍した日があった。6年前の5月27日。米国の現職大統領として初めてオバマ氏が被爆地広島の土を踏んだ日である▲大統領は広島市中区の平和記念公園に到着したものの、詰めかけた市民が目にするのは人の背中や頭ばかり。人々は、地デジのワンセグ放送を受信できるガラケーを持つ人を見つけ、小さな液晶画面を囲み、そうしてテレビの生中継に固唾(かたず)をのんだ▲来年のG7サミットの広島開催が決まった。岸田文雄首相の肝いりで今度は、米国に英国、フランスと核兵器を持つ3カ国のリーダーがそろって原爆慰霊碑に向き合うことになりそう▲6年前、オバマ氏のスピーチはその碑を背にして始まった。「空から死が落ちてきて世界は変わった」。哲学的な物言いに、原爆投下国の謝罪は含まれない。ただ、死没者を追悼する大統領の誠心誠意は伝わってきた▲被爆の惨状を深く記憶に刻み、核兵器のない世界へ歩むことこそ、世界人類の「標準仕様」としなければなるまい。今度はスマホでもテレビの生中継が見られるよう、しっかり準備してその日を待ちたい。

(2022年5月24日朝刊掲載)

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