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社説・コラム

社説 広島サミット決定 核なき世界 議論の場に

 岸田文雄首相の決断を歓迎したい。2023年に7年ぶりに日本で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)の開催地が広島市に決定した。きのうの日米首脳会談で首相がバイデン大統領に方針を伝え、成功へ共に取り組むことを確認した。

 原爆投下国であり、核超大国である米国の支持をはじめ、G7でほかに核兵器を持つ英国やフランスも含めて全ての国が賛同しているという。米国のオバマ大統領が16年に広島入りしたのに続いて、核保有2カ国の現職リーダーが新たに被爆地を訪れることになる。

人類史的な意義

 ロシアによるウクライナ侵攻に際して、プーチン大統領は核兵器使用の可能性を公然と口にした。北朝鮮による核・ミサイル開発の加速、あるいは台湾の現状変更を視野に入れる中国の核戦力増強など、核を巡る国際情勢は厳しさを増している。

 だからこそG7首脳が被爆地に集い、平和の誓いを新たにすることは人類史的にも大きな意義がある。「広島ほど平和へのコミットメントを示すのに、ふさわしい場所はない」「核兵器の惨禍を人類が二度と起こさないという誓いを示す」。会談後の記者会見における首相の言葉にも象徴されている。

 バイデン氏は首相の地元での開催を歓迎する、とも聞こえる言い方をした。衆院広島1区選出であり、「核兵器のない世界」の実現をライフワークに掲げる首相の意向で広島を選んだのは確かだ。しかし私たちは我田引水とは思わない。

 仮に首相が誰であっても被爆地からメッセージを発する重みは変わらないはずだ。なぜ広島で開催するのか国内外に対して引き続き丁寧に説明し、サミットへの機運を高めてほしい。

 被爆地が長く求めていたサミットの開催は、2000年代以降の要人訪問ラッシュの流れに位置付けられる。

 08年には当時、ロシアが入っていた主要国(G8)の議長サミットが広島で開かれた。そして16年は広島でのG7外相会合に続いて、伊勢志摩サミット後の時間を利用してオバマ氏が短時間だが平和記念公園を訪れ、核なき世界への決意を示す演説をした。19年にはローマ教皇フランシスコが長崎に続いて広島を訪れ、核廃絶を訴えた。

「核の傘」に依存

 国際社会で被爆地の存在感が高まる中で、核兵器禁止条約が発効した。ただ核保有国に加え、被爆国の日本も批准しないままだ。そこにロシアの核使用の脅しもあって「核兵器がなければ国を守れない」という短絡的な言説が横行し始めている。まさに核軍縮には逆風が吹いているといえよう。

 サミットの誘致は被爆地にとって朗報ではあるが、国際社会に厳しい現実が横たわることも忘れたくない。広島開催が核兵器廃絶の実現に直結するとは、現時点では言い難い。

 日米首脳会談や共同声明は、そのことも浮き彫りにした。ロシア包囲網に加え、対中国、対北朝鮮で「拡大抑止」の強化を両首脳が打ち出したからだ。そこには日本政府が依存を続ける「核の傘」が含まれる。

 オバマ政権で副大統領だったバイデン氏にしても、核兵器をなくす将来的な目標は降ろしていない。「核兵器のない世界に向け、共に取り組んでいくことでも一致した」と首相は会見で付言したが、新冷戦と呼ばれる対立構造の下で核戦力をどう減らしていくかは、具体的な道筋が示されていない。

被爆者の声聞け

 広島でサミットが開かれる1年後の世界情勢は、必ずしも読み切れない。今のように緊迫した状況が続くとすれば、核兵器廃絶を議論するどころか被爆地を舞台に核抑止力をアピールする場になりかねない。

 核兵器が使われると何が起きるのか。非人道的な現実こそ各国首脳が直視し、核抑止論の無意味さを肌で感じる場にすべきだ。平和記念公園で多くの時間を取ってもらい、原爆資料館をじっくり見て被爆者の思いを聞いてほしい。そのための準備をすぐ始めたい。

(2022年5月24日朝刊掲載)

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