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連載・特集

[2023広島サミット]緊急連載 G7サミットヒロシマへ <上> 政府の思惑

広島開催「大義」固まる

露侵攻 核戦争が現実味

 東京・元赤坂の迎賓館。日米首脳会談を終えた岸田文雄首相(広島1区)は、バイデン米大統領とともに会見場に姿を見せた。

 日米同盟の強化などの合意事項を読み上げた後、首相は声のトーンを一段上げる。日本が2023年に開く先進7カ国首脳会議(G7サミット)についてだ。

 「広島ほど平和へのコミットメント(関与)を示すのにふさわしい場所はない」。広島開催を宣言した瞬間だった。

 広島、福岡、名古屋の3市によるサミット誘致レースは昨年末に始まった。政府が重視したのは、宿泊施設の収容能力や警護のしやすさなど。一時有利とみられたのは福岡市だった。アクセスの利便性などに加え、被爆地開催は核兵器を持つ英国やフランスが難色を示すだろうとの見方も。

 そこに2月下旬、ロシアによるウクライナ侵攻が起きる。プーチン大統領は核兵器の使用をにおわせた。むき出しとなった核戦争の恐怖。国際社会はおののき、激しい非難の声を上げる。もちろん被爆地からも怒りの声。この頃から官邸の空気感も変わっていく。

 「核戦争の恐ろしさ、愚かさを世界に伝えるには、G7サミットを広島で開くべきではないか」。政府関係者にこんな声が広がる。

大統領に配慮

 首相の胸にも被爆地開催の大義が固まる。3月下旬にはバイデン大統領の側近で着任間もないエマニュエル駐日大使と、平和記念公園(中区)を訪れた。

 国内外の追い風もあった。首相と5月に会談したローマ教皇フランシスコ、欧州連合(EU)ミシェル大統領はともに被爆地の重みを強調。連立与党の公明党も広島開催を求めた。

 こうした中、政府は開催地の公表時期について表向き「6月下旬のドイツサミットまで」としつつ、バイデン大統領の来日時に打ち出すシナリオを探った。外相時代の2016年、米オバマ大統領(当時)の広島訪問実現に尽くした首相にとって、当時の副大統領バイデン氏は「ジョー」「フミオ」と呼び合う親密な間柄。オバマ氏の「核なき世界」の理念を継承するバイデン氏に広島開催をじかに伝え、最大限の配慮を示せるとの算段が働いた。

 米国と共同歩調でロシアの脅威に対応する北大西洋条約機構(NATO)傘下の英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの5カ国にも、事務レベルで広島開催の意向を伝達した。

核軍拡の様相

 ただ、「核兵器のない世界」をライフワークとしながらも、米国の「核の傘」に頼る首相の姿勢には、広島の被爆者から「もっと核兵器廃絶の先頭に立ってほしい」との不満も根強い。

 首相はこの日も、中国や北朝鮮の脅威を念頭に、米国の核兵器や通常戦力を頼りにした「拡大抑止」の強化をあらためて表明した。

 核軍拡の様相すら漂う情勢下にあって、首相はG7各国の首脳にどう被爆者の声に向き合ってもらうのか。松野博一官房長官はこの日の会見で、広島サミット開催時の被爆者との面会について「今後検討する」と述べるにとどめた。(樋口浩二)

    ◇

 来年の広島サミットが決まった。初の被爆地開催はどんなプロセスをたどって決まったのか。被爆者の期待や、核兵器を持つ米英仏を含むG7首脳を迎える意義について緊急連載で探る。

(2022年5月24日朝刊掲載)

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