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社説・コラム

社説 新経済圏IPEF発足 対中国へ 利点問われる

 バイデン米大統領が提唱する新たな経済圏構想インド太平洋経済枠組み(IPEF)の発足を日本で宣言した。

 日米や韓国など参加を表明した13カ国が、半導体や電池のサプライチェーン(供給網)強化など4分野で協議を進める。

 インド太平洋地域において、経済・軍事の両面で拡大を図る中国に対抗する狙いだ。連携強化により「21世紀の競争を共に勝ち抜く」と、バイデン氏は強調する。だが関税の引き下げは議題に含まないことから、参加国にとってメリットが乏しい。枠組みの具体像や実効性が見えてこない。

 日本は米国がこの地域に関与することを歓迎し、アジア各国との仲介もしてきた。今後は調整役はもちろん、実効ある枠組みとなるよう、具体化の議論を急ぐことが求められる。

 参加13カ国で世界の国内総生産(GDP)の4割を占める。環太平洋連携協定(TPP)や中国がけん引した地域的な包括的経済連携(RCEP)よりも規模の大きい枠組みとなる。TPP、RCEPに加入していないインドが参加していることは、大きな意味を持ちそうだ。

 インド太平洋地域を外交戦略の柱と位置づけながら、この地域に経済枠組みを持たぬ米国が打ち出した「苦肉の策」である。というのも、米国が国内の産業保護を優先し、関税削減は議論の対象外とした。互いに関税を引き下げるTPP、RCEPのような自由貿易協定ではない。

 米中が影響力を争う東南アジア諸国連合(ASEAN)からは10カ国中、インドネシアなど7カ国が加わってはいるが、四つの分野ごとに参加を募るという、ハードルを下げて確保した面がある。

 複数の経済枠組みが地域に並立することになり、日本やニュージーランドなどTPPやRCEPにも加盟する国も目立つ。果たして実効ある枠組みにできるだろうか。

 IPEF成否の鍵は、参加国がメリットをどれだけ感じられるかだろう。米市場の関税引き下げがないのなら、輸出増加を期待しにくい。実際に不満を表明する国もあったという。早急に成果を具体化しなければ、求心力を失うはずだ。

 半導体などのサプライチェーン強化をはじめ、IPEFが柱とするのは、デジタルを含む「貿易」での高水準ルールの追求、「クリーンエネルギー・脱炭素・インフラ」、課税逃れを防ぐ「税制・反汚職」である。4本柱のいずれも21世紀の成長にとって、重要な価値観であるのは間違いない。

 しかし中心的な発足メンバーの日本にとって懸念すべき点もある。半導体が安定的に確保されても対中国を鮮明にすることでビジネスへの悪影響が予想される。原子力の活用には国民の不安や抵抗が拭えていない。

 バイデン氏との会談で岸田文雄首相は防衛費増額への決意を表明した。きのうは日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」の首脳会合で、海洋進出の動きを強める中国を念頭に、自由で開かれたインド太平洋地域の実現へ連携することで一致した。

 TPPへ加盟申請もしている中国の動向をにらみつつ、IPEFの議論を主導せねばなるまい。インド太平洋地域の安定へかじ取りが問われている。

(2022年5月25日朝刊掲載)

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