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連載・特集

[2023広島サミット]緊急連載 G7サミットヒロシマへ <下> 迎える意義

核抑止論 脱却の契機に

働きかけ 官民一体で

 先進7カ国首脳会議(G7サミット)が初めて被爆地の広島市で開かれることが決まった23日、記者会見した松井一実市長は高揚感を隠さなかった。「この広島の地に核兵器保有国を含む主要国の首脳が集い、対話する意義は極めて大きい。核抑止を超えた外交政策に向け、揺るぎない決意が発信されることを希望する」

 「迎える平和」を掲げる市は、国内外のリーダーに訪問を呼びかけてきた。原爆資料館(中区)の見学などを通じて被害の実態を知るだけでなく、核兵器廃絶に向けた政策転換の契機にしてもらうためだ。

軍縮へ高い壁

 ただ、被爆地訪問が核軍縮に向けた具体的な成果につながるのか。これまでの経緯や現在の国際情勢を踏まえると、その道は高く険しいと言わざるを得ない。

 2016年4月、G7と欧州連合(EU)の外相が平和記念公園(中区)を訪問した。「核兵器なき世界」をうたったプラハ演説で09年にノーベル平和賞を受賞したオバマ米大統領(当時)もその1カ月後、原爆慰霊碑前で演説し、被爆者と抱擁した。広島は世界的な注目を集め、原爆資料館を訪れる外国人観光客の急増にもつながった。

 一方、残る任期がわずかだったオバマ氏の訪問は「個人的なレガシー(政治的遺産)づくり」とも指摘された。米国はその後も核兵器の近代化に巨額の予算を投じ続け、トランプ米政権下では小型核の開発や配備が進んだ。英国はロシアや中国に対抗するためとして保有数の上限を引き上げた。各国の核政策はむしろ、軍備増強の様相を強めてきている。

 「広島に来て終わり、では意味がない」。元原爆資料館長で被爆者の原田浩さん(82)=安佐南区=は指摘する。館長時代に各国の要人を案内した経験から、広島には政治指導者の心を動かす力があると感じるからこそもどかしさを覚える。「これだけの首脳が集まるチャンスは後にも先にもない。核軍縮につながる成果が出るよう、効果的な働きかけを行政と市民で一緒に考えねば」と力を込める。

 広島サミットの決定の背景には、今年2月にウクライナへ軍事侵攻したロシアが核兵器使用を示唆していることへの危機感もあった。政府関係者によると、誘致活動をした福岡、名古屋市と警備や宿泊施設の面で評価に差が出ない中、核軍縮を話し合う場として広島が最適だと岸田文雄首相(広島1区)が判断した。首相が意思を固めた後、政府が半月かけてG7各国の了解を取り付けたという。

鍵は人道主義

 「サミットで成果を出せるかは、開催までの1年間に日本政府がどう動くかにかかっている」。広島大大学院の片柳真理教授(平和構築論)は、ロシアのウクライナ侵攻で、日本政府が停戦を促すなど積極的な役割を果たしていくよう呼びかける。「日本政府はサミットを機に、人道を最重視する姿勢を貫く独自外交を打ち出してほしい。人道主義を行動で示せば、被爆地からの核兵器廃絶の訴えに対する世界の共感も得られるはずだ」(明知隼二、口元惇矢)

(2022年5月26日朝刊掲載)

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