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社説・コラム

著者に聞く 「海峡から聞こえてきたブルース」 福屋利信さん フェリーが紡ぐ日韓交流

 元徴用工や慰安婦問題で、日本と韓国の国同士のすれ違いが続く。K―POPが日本でブレークし、日本の巨匠が韓国映画を撮る昨今である。海峡を超えた市民レベルの交流はますます成熟化する。「それなのに」と、著者はもどかしそうだ。

 国同士が意地とプライドを捨て、歩み寄る必要があると主張する。「東京とソウルという政治での反目が続く今こそ、下関と釜山の地方が連綿と続けてきた肌感覚の交流が社会的な意味を持つ」と語気を強める。

 副題を「関釜連絡船と関釜フェリーが帯びた記号論」とし、両地域を船で結んだ今昔の関釜航路を見つめ直すことが、関係修復のきっかけになるとみる。

 連絡船は日露戦争後の1905年に就航し、関門海峡が機雷封鎖された太平洋戦争終結間際の45年まで続いた。その後、日韓国交正常化後の70年にフェリーとして再開した。本書では、その歴史を掘り起こした。

 「二つの航路への人々の思いは違う」と断じる。連絡船は「戦前の暗い歴史を背負ってきた」と解説する一方、「フェリーは現在を未来につなぎ、戦後途切れた民間交流を再び紡ぐことになった」と訴える。

 注目するのは、フェリーで両地域を往復し商品を担いで運ぶ女性「ポッタリチャンサ」だ。下関から家電製品を、釜山から食材や焼酎を持ち込んだ。「その役割は薄れているが、両国をつなぐ重要な橋渡し役だった」

 著者の専門は音楽社会学である。それでもミュージシャン桑田佳祐が平和を祈願し作詞、作曲したラブソング「ピースとハイライト」を2013年に発表すると、矢も盾もたまらず筆を執った。関釜フェリーが行き来する山口県人だからこそ、「物申したかった」と漏らす。

 タイトルの「ブルース」は、民間交流を支え、そのはざまで苦しんだ在日コリアンの悲しみの声「恨(はん)歌」を表し、その声に耳を傾けるべきだとも説く。K―POPなどに興味を持つ若者にこそ読んでほしいという。「日韓の関係を表面的ではなく、歴史を含めて深く興味を持って」と訴える。(中井幹夫) (大学教育出版・1980円)

ふくや・としのぶ
 1951年周南市生まれ。山口大教授などを経て山口学芸大客員教授。著書に「ビートルズ都市論」「植民地時代から少女時代へ」など。

(2022年5月29日朝刊掲載)

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