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[G7サミット ヒロシマへ] オバマ氏広島訪問6年 原爆投下国 変わらぬ政策(2023広島サミット)

核軍縮 露侵攻で危機的

 オバマ氏が米国の現職大統領として初めて被爆地広島を訪れてから、27日で6年を迎えた。来年には、オバマ氏の理念を受け継ぐとされるバイデン米大統領が、先進7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせて広島を訪れる。ウクライナ情勢を背景に核兵器使用のリスクは高まった。世界で唯一、核兵器を実戦で使用した国のリーダーの2度目の広島訪問の意義が問われることになる。

 核兵器のない世界を追求する勇気を持たなければならない―。広島での演説でオバマ氏はそう訴えた。多くの被爆者は核軍縮の前進に期待した。しかし、米国の核政策に変化はなく、特にトランプ大統領に交代した後は核軍拡の様相すら帯びた。

 ウクライナに侵攻したロシアは核兵器の使用を繰り返し示唆。世界の核軍縮は危機的な状況になっている。核兵器への依存も強まりつつある。ロシアと並ぶ核超大国のトップの広島訪問を、核軍縮への一歩とできるか。迎える広島の準備が鍵を握る。(明知隼二)

抑止力の維持最優先

 「広島ほど平和へのコミットメントを示すのにふさわしい場所はない」。岸田文雄首相(広島1区)は23日、核兵器保有国を含むG7首脳が広島に集う意義を強調した。中でも米国は1945年8月に広島と長崎に原爆を投下した当事国で、現在もロシアと並ぶ核兵器保有大国だ。

 オバマ氏は2016年5月27日、平和記念公園(広島市中区)で演説し「核兵器のない世界を追求する勇気を」と保有国の責任を説いた。しかし任期を通して核兵器の近代化に巨額の予算を投じて爆発を伴わない核実験を繰り返しており、広島訪問は「レガシー(政治的遺産)づくり」とも指摘された。続くトランプ政権は小型核の開発・配備を進めた。

 オバマ政権で副大統領を務めたバイデン氏は核の先制不使用政策の実現を探るなどオバマ氏が掲げた「核兵器なき世界」の理念を受け継ぐとされる。一方、政権として示した新核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」では核抑止力の維持を「最優先事項」と明示。核兵器禁止条約に反対する政策にも変わりはない。広島での言動があらためて注目される。

米国世論の関心低く

 米国内の世論を慎重に見極めたオバマ氏の時と比べてバイデン氏の広島訪問はすんなり決まったようにも見える。米国内の受け止めは変わったのか。「オバマ氏の初訪問時とはかなり状況が異なる」と指摘するのは、米国の政治とメディアに詳しい広島市立大の井上泰浩教授だ。訪問決定には、原爆を巡る国内世論の変化やウクライナ情勢など複数の要因があるとみる。

 米国内では長年、退役軍人などを中心に原爆投下を「多くの米兵や日本人の命を救った」と正当化する意見が根強かった。オバマ政権は被爆地訪問への反発を意識し、慎重にタイミングを図ったとみられる。しかし、大戦に関わった退役軍人の多くは亡くなり、原爆を強硬に正当化する意見は相対的に弱まっているという。井上教授は「主要紙は広島訪問決定を全く報じておらず、関心は極めて低いのが現状だ」と話す。

 一方、ロシアによるウクライナ侵攻や「核の脅し」については主要紙やテレビが連日、手厚く報道。安全保障上の懸念として核兵器使用が注目されている。井上教授は「政策決定者にとって訪問を決めるハードルはほとんどなかっただろう」とみる。加えて、バイデン氏の訪日の目的はあくまでG7サミット。他の保有国首脳と横並びの訪問となり、オバマ氏のような演説を前提としていない。

 米国世論の広島への関心の低さが、バイデン氏の訪問を容易にした―。もしこの皮肉な推測が当たっているなら、原爆投下国である米国のトップが広島を訪れる意味や責任をあらためて問う必要性を示している。核兵器が人間にもたらした惨状と、その事実を踏まえた廃絶の訴えを、どうすれば米国市民やそのトップに届けられるのか。来年のG7サミット広島開催に向け行政や市民が一体となった取り組みが求められる。

(2022年5月28日朝刊掲載)

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