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社説・コラム

『ひと・とき』 フリーライター 丸古玲子さん 呉の戦争証言 向き合う

 歴史証言を聞き取り、忠実に言葉を記録する「オーラルヒストリー」を追求してきた。4年前に初めて手がけた単著「呉本(くれぼん)」の続編を今春に出版。呉市内の軍需工場へ学徒動員されていた女性や郷土史家たち13人の取材を基にオーラルヒストリーを収めた。

 呉市で生まれ育ち、大学進学を機に東京へ移り住んだ。フリーライターとして、テレビ局やチケット販売会社の宣伝記事を執筆。人気俳優らを取材する華やかな世界でキャリアを重ね、故郷を顧みることはほとんどなかった。

 立ち止まるきっかけとなったのは、大ヒットしたアニメ映画「この世界の片隅に」(2016年)。スクリーンに映し出される戦時下の郷土を目の当たりにし、「自分は呉の人間なのになぜ、知らなかったのか」。ショックを受け、自身への怒りがこみ上げた。

 東京の自宅で一人出版社「ちょうちょ人間」を設立。帰省のたびに家族や友人のつてをたどり、戦争体験者を訪ねてとことん話を聞く。会話の雰囲気をとどめようと、相づちやつぶやきも残すため、これまで出した「呉本」「江田島本」はどれも分厚い。

 飛び込み営業で広島市内の書店で販路を広げ、広島蔦屋書店(西区)では、フェアが開かれた。「おしゃべりでしか残せない歴史がある。呉という土地がはらんでいるすごみと向き合っていく」(桑島美帆)

(2022年5月31日朝刊掲載)

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