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連載・特集

緑地帯 村上満志 バス弾きのつぶやき①

 現在、東京混声合唱団で組織の運営にあたっているが、それ以前は東京都交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団で40年間にわたってコントラバスという楽器を演奏してきた。

 楽器との出会いは1963年、宇品中学校にあった弦楽クラブだった。吹奏楽(ブラスバンド)全盛の時代に弦楽クラブがあったことは今思い返せば奇跡に近いことで、その体験がなければ私は音楽に携わっていなかったと思う。

 高校へ進学後、勉学に意欲的になれないタイプの私は、高2の秋に中学校時代の先生を訪ね、楽器を弾いて大学へ行きたいと無理なお願いをした。わが家の経済状況をよくご存じだった先生は、大学受験に必要なソルフェージュと副科ピアノのレッスンを1年半の間、全くの無償で続けてくださった。このことは、のちに大学などで音楽を教える立場になった私に大きな教えとして生き続けた。

 先生の献身的な後押しで島根大学教育学部に入学。コントラバスの練習にいそしむ時間は幸福感に満ちていた。しかし、当時の島根大学にはコントラバス専門の先生はいなかったので、アルバイトでお金をためて、少しつながりのあったN響(NHK交響楽団)の先生にレッスンを受けることにした。

 大学4年になり、ほとんどの仲間が教員採用試験を受ける中、自分が過ごした4年間を検証するため、そしてもう少しコントラバスを弾くために東京芸術大学への再入学を目指すことにした。 (むらかみ・みつし 東京混声合唱団参与=広島市出身)

(2022年5月31日朝刊掲載)

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