×

連載・特集

被爆60周年 明日の神話 岡本太郎のヒロシマ 第4部 息づく精神 <中> 次世代へ

独立自尊 背中で見せる

鋭い視点 脈々と継承

 京都府在住の美術家ヤノベケンジさん(39)は、放射線測定器を備えた防護服「アトムスーツ」を着てチェルノブイリ原発事故の被災地を歩くなど、強烈なインパクトのあるアート活動を展開してきた。

 昨年夏、東京・夢の島の第五福竜丸展示館であった美術展には、「森の映画館」と題し、小さなログハウスを模した鉄製の核シェルターを出品。その室内で「核攻撃を生き延びる方法」をうたう米国製の教育番組を放映した。入り口に立つ客引きの人形はアトムスーツをまとい、放射線を感知すると踊りだす。こっけいさの中に鋭い社会風刺をはらむ作品だ。

 ヤノベさんは、岡本太郎の「太陽の塔」がそびえる大阪府吹田市、千里万博記念公園を「創作の原点」と位置付ける。幼いころ近くに住み、万博直後から盛んに遊び回った場所という。

    ◇

 「未来をイメージした数々のパビリオンなど、万博の遺構が鉄球で取り壊されていくのを眺めながら遊んだ。『未来の廃虚』を見るようで、強烈な原体験になった」

 チェルノブイリ被災地でのパフォーマンスは、核戦争後の世界を想起させるその地で、「未来の廃虚」を再度体験したいという衝動から決行した。一昨年には、やはりアトムスーツ姿でゲリラ的に太陽の塔に登り、敬愛する岡本の代表作と”共演”を果たした。

 ヤノベさんは「作品で社会にメッセージを発信するつもりはない。純粋に個人的な欲望の表現」と語る。しかし、己を貫き通した作品が、結果的に社会に切り込む力を帯びるさまは、岡本の姿にも重なる。

 ヤノベさんと同じく現代美術の第一線で活躍する小沢剛さん(40)=さいたま市=は、「岡本太郎が亡くなった日、体に『美』というあざのある八人の宿命の子どもが生まれた」という物語を仮想し、その子たちが出品したという設定の「グループ展」などを発表してきた。岡本への強い意識がにじむ。

 高校生のころから岡本の著作に親しんだ小沢さんは、岡本を伝道師に例える。「テレビなどでピエロ的な役を演じてでも、芸術を一部の人の独占物にしないために闘った」と評価する。

 小沢さんの作品は、野菜を機関銃など武器の形に組み、後で鍋料理にして食べる「ベジタブル・ウェポン」など、シニカルな中に脱力系のユーモアがあり、抜群に親しみやすい。岡本とは違った方法で、現代美術への扉を多くの人に開く活動を見せている。

 東京・南青山の岡本太郎記念館を運営する岡本太郎記念現代芸術振興財団は、岡本の精神を継承する作家を顕彰する公募展「岡本太郎記念現代芸術大賞」を主催している。

 第八回の今年、大賞該当作はなかったが、名古屋市の彫刻家藤井健仁さん(37)が準大賞を射止めた。受賞作は、ブッシュ米大統領ら著名人をモチーフに鉄のマスクを作り、さらし首のように並べて「彫刻刑 鉄面皮プラス」と名付けた。

 藤井さんは岡本を、自らの”厳父”と表現する。「決して守りに入らない生き方を、背中で見せてくれた」とたたえる。

    ◇

 「自分には先生も弟子もいない」と語った岡本は、その魅力的な独立自尊ぶりでかえって次世代の作家を励まし、育てたといえるかもしれない。核問題も含め、現代社会に鋭いメッセージを突き付ける作品が、後進の手で今も生まれている。

(2005年5月27日朝刊掲載)

年別アーカイブ