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連載・特集

[G7サミット ヒロシマへ 期待と注文] 広島市立大広島平和研究所長 大芝亮さん 核抑止 見直しの一歩に(2023広島サミット)

 2023年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)の開催地が広島市に決まった。ウクライナに軍事侵攻したロシアが核兵器の使用を示唆し、北朝鮮は核・ミサイル開発を加速するなど、国際情勢は厳しさを増す。核軍縮が危機的な状況となる中、初めて被爆地で開かれるサミットの意義は何か。どんな成果が求められるのか。識者や、地元の自治体、経済界のトップたちに聞く。

  ―広島でサミットが開かれる意義をどう捉えますか。
 被爆地開催を決めただけでロシアに対する強烈なメッセージとなる。核兵器は使用してはならず、使うとの脅しも許されない。サミットで保有国の米英仏を含むG7の首脳が、この当然のルールを確認し声明で出せば、国際社会の規範を確立する大きな一歩になる。

具体的道筋を

  ―ロシアのウクライナ侵攻を機に、各国の核抑止への依存は高まっているのではありませんか。
 ロシアは早々と核兵器の使用を示唆し、国際社会を脅した。私たちは核戦争の入り口がいとも簡単に訪れる危険性を見せつけられた。核抑止力に基づく秩序の維持は幻想で、リスクの高い仕組みであることが露呈した。各国が核抑止に基づく安全保障体制を見直さない限り同じ危機が繰り返されるだろう。

  ―核軍縮に向けて議長国である日本政府にはどんな役割が求められますか。
 岸田文雄首相(広島1区)は「核兵器のない世界」を掲げているが、それを理想に終わらせない具体的な道しるべを示すべきだ。5月の日米首脳会談では、米国が核兵器と通常戦力で日本防衛に関与する「拡大抑止」の強化を訴えた。建前と本音を使い分けているように被爆地の市民には映る。諸外国からもそう見えるだろう。

 矛盾を解きほぐす作業が必要だ。具体策の一つとして、核兵器禁止条約への参加を検討するべきだ。今月にオーストリアである締約国会議にはオブザーバーとして出席してほしい。

  ―サミットの場で具体的に何を打ち出す必要があるのでしょうか。
 核兵器保有国と非保有国、被爆国が参加するサミットは、世界の核軍縮の進め方を討議できる絶好の場だ。広島で開くからには、核兵器の非人道性を訴えるとともに、廃絶に向けた具体的な指針を示し、これまで以上に各国に協議を働きかけてほしい。一致点を見いだすのは決して簡単ではないが、これからの外交努力に期待したい。

活発な議論に

  ―サミット開催は市民活動にも影響を与えますか。
 サミットは政府間の議論が注目されるが、世界中の非政府組織(NGO)が集まる。広島にはもともと平和活動をする市民団体が多く、活発な議論が広島サミットの特徴になるだろう。核兵器禁止条約の締約国を増やす方策などを話し合うことができる。

  ―国際情勢を変えるきっかけになるでしょうか。
 ロシアのウクライナ侵攻は、核抑止による秩序がもろく、食料や天然資源を輸出入する経済的な相互依存が国際協調を促すわけではないことを浮き彫りした。G7は欧州と北米、アジアの主要国が集まる重要な政治・外交の場だ。核抑止論から脱却し、中長期的な新しい国際秩序を示してほしい。(聞き手は川上裕)

おおしば・りょう
 一橋大法学部卒。米国エール大で博士号取得(政治学)。一橋大理事・副学長、青山学院大国際センター長などを経て、19年4月から現職。専門は国際関係論。兵庫県出身。68歳。

(2022年6月2日朝刊掲載)

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