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故郷回帰 音楽の原点 9日広島で無料10公演 大植英次さんが思い

 広島市佐伯区出身の指揮者大植英次さん(57)の呼び掛けで9日、同市内で開かれる音楽イベント「威風堂々クラシック in Hiroshima」。原爆が落とされた午前8時15分から、市役所をはじめ平和記念公園、基町高など9カ所で、午後8時半まで10公演(入場無料)を繰り広げる。「広島人による広島人のための音楽の日」という大植さんに、思いを語ってもらった。(聞き手は松本大典)

 被爆から40年の1985年。師匠のレナード・バーンスタインと一緒に広島で公演した際、2人の被爆者から、「憩いの場をつくってくれてありがとう」とお礼を言われた。70~80代のおばあさんが、わざわざ楽屋まで来てくれて。あの言葉が原点かな。世界に出て有名になりたいと突っ走ってきた自分には、神の声に思えた。富とか名誉のためでなく、人のために奏でる。音楽の本質にあらためて気付かされた。

 それは誰もが等しく享受できないといけない。だから、今回は無料。普段、ホールに行けない人も、みんなどこかで楽しめる。赤ちゃんがぐずってもいい。どの会場もいっぱいにしなきゃいけないのではなく、1人でもいいから来てもらい、来てよかったと思ってもらえれば本望だ。

 出演者も公募した。広島交響楽団などのプロも交じるが、全て有志。ドイツなど海外からの演奏家は全て僕が招いた。税金は使わない。ただ、各会場では募金を呼び掛ける。運営に充てるだけでなく、意欲ある若者の奨学金や学校の音楽活動など広島の才能を育むために使いたいとも思う。

 プログラムも、多くは地元の人たちに考えてもらった。お願いしたのは、最初と最後で「威風堂々」を奏でること。草木も生えないといわれた町の復興を見事に遂げた広島にふさわしい曲だ。

 市役所ではビバルディの「四季」を演奏する。8月6日だけでなく、一年中、平和を意識してほしいとの思い。平和公園では、コープランドの「市民のためのファンファーレ」を入れた。原爆の一番の被害者は広島市民。それも忘れてはいけない。

 学生たちでつくるオーケストラやブラスバンドには「心音」の名を付けた。音楽でどれだけ人の心を動かせるか感じてもらいたい。お客さんには、若くて素晴らしい才能が地元にこんなにもあると知ってほしい。レベルの差はあるが、間違いなく、素晴らしい音になる。

 同じような音楽イベントは、僕が音楽監督を務めた楽団のある町などで順次、つくってきた。92年、米ペンシルベニア州のエリーという町が最初。12月31日、五大湖の一つ、エリー湖へ通じる目抜き通りで演奏を重ね、最後に花火を上げて新年を迎えていた。

 ワイオミング州のジャクソンホールでは、西部劇に似合うバーやハンバーガー店などで演奏した。人口を大きく超える約2万人が押し寄せる音楽祭になった。ミネソタ州やドイツのハノーバー、大阪でも展開した。

 広島は8カ所目。2010年の庄原の豪雨災害や翌11年の東日本大震災の際に行ったチャリティーコンサートで手応えを得た。地元の中高生や音楽家が結集し、たくさんの寄付も集まった。そして、昨年末の「第九ひろしま」。公募でつくった小中高生たちによるオーケストラの仲間から、「この灯を消したくない」との思いが湧き起こり、新しい動きにつながった。

 57歳になり、世界で学んできたことをそろそろ還元していく時期かなと思う。ずっと支えてくれた故郷に恩返ししたい。僕が先頭に立つのではなく、皆さんがやりたいことを最高の形にしていく。広島だけの純粋な「音楽の日」に育ててほしい。(談)

<威風堂々クラシック in Hiroshima>

時間          会場
 8:15~ 9:15 広島市役所1階市民ロビー(午前8時からオープニングセレモニー)
 9:40~10:40 中国新聞ホール
11:00~11:30 原爆資料館本館下
11:50~12:50 広島市青少年センターホール
13:10~13:50 同
14:10~15:00 広島県立美術館1階ロビー
15:15~16:00 中国放送本社1階ロビー
16:15~17:10 リーガロイヤルホテル広島1階チャペル
17:15~18:10 ひろしま美術館(子どものためのコンサート)
18:30~20:30 基町高講堂 ※要整理券

(2013年11月7日朝刊掲載)

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