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社説・コラム

天風録 『林真理子さん』

 川端康成に遠藤周作、井上ひさし…。戦後史だけ見ても名だたる顔が並ぶ。日本ペンクラブ会長に昨年、女性で初めて桐野夏生(なつお)さんが就任した。「あえて火中の栗を拾う」。重責を担う覚悟を語った対談記事をネットで見つけた▲表現の自由を守り、平和を希求するという崇高な理念を掲げるペンクラブ。しかし世界では女性の人権や言論の自由が踏みにじられることが少なくない。現状が厳しいから、自らを奮い立たせる言葉を述べたのだろう▲今度は、桐野さんの対談相手だった林真理子さんが、別の火中の栗を拾うことになりそうだ。脱税事件など不祥事続きで信頼が地に落ちた日本大の理事長就任が、きょう決まるという。母校を何とかしたいと、かつて記していた▲イメージ刷新に好都合と判断されたようだ。人がやりそうにないことをやる―。自著で紹介した人生を切り開く戦略を基に林さんは、どんな手腕を見せるだろう。前途は多難だ。権勢を振るった前理事長の影響力は一掃されたか。不安は残っている▲担がれるだけのみこしのままか。それとも、大河ドラマになった自身の小説「西郷(せご)どん!」の主人公のように無血開城を果たすのか。行方が気になる。

(2022年6月3日朝刊掲載)

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