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社説・コラム

天風録 『ミッドウェー80年』

 作家の故半藤一利さんの名著「昭和史」の一節が、印象に残る。ある元海軍中将から戦後、こう聞いたという。「驕慢(きょうまん)の一語に尽きます」。ミッドウェー海戦の敗因のことだ。80年前のきょう太平洋で日米艦隊が相まみえた▲半年前の真珠湾奇襲で増長した日本の海軍。ミッドウェー諸島を占領し、米空母機動部隊をおびき出す作戦だったが、暗号は解読されていた。米機の猛攻で虎の子の空母4隻を失い、敗戦への流れが決まったといえる▲「負けに不思議の負けなし」と言う。あいまいな目的、情報の軽視…。なぜ作戦に失敗したのか戦後、さまざまに語られた。おごり高ぶり現実を直視する姿勢がなかったのは確かだろう▲その時の戦術を、あれこれ論じるつもりはない。海戦の惨敗は国民に伏せられ、誰も責任を取らぬまま戦争は泥沼化する。もし謙虚に立ち止まっていれば沖縄戦や広島、長崎の惨劇もなかったのでは、と思ってしまう▲ミッドウェーは何度も映画化され、おととしハリウッドの新作が日本でも封切られた。ヒットしたとは言い難い。昭和は遠くなりにけり、なのか。日本が坂道を転がり落ちる大戦のさまざまな節目が、これから「80年」を迎える。

(2022年6月5日朝刊掲載)

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