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社説・コラム

社説 核禁条約会議不参加へ 廃絶へ日本の決意示せ

 岸田文雄首相が、20日にオーストリアのウィーンである「核兵器の非人道性に関する国際会議」に政府代表団を派遣すると表明した。一方で、その翌日に同じ会場で開幕する核兵器禁止条約第1回締約国会議へのオブザーバー参加は見送るという。

 オブザーバー参加は被爆者や与党公明党、条約に賛同する世論などが求めてきた。原爆の惨禍を知る日本が、人類存続のため核兵器廃絶が必要だと訴えなければならないからだ。その被爆国の代表団が非人道性会議だけ出席してウィーンを離れてしまえば、非核兵器保有国などの失望を買うのではないか。

 非人道性会議は2013年、核軍縮の停滞に業を煮やした国々が中心になって第1回をノルウェーで開催。14年までに3回を重ね、核禁条約制定へのうねりを起こした。

 日本はこれまで被爆者を含む代表団を派遣。原爆がいかに人道に反するか、身をもって訴えた被爆証言は議論の根幹をなした。裏を返せば日本の参加が不可欠の会議である。首相はおとといの参院予算委員会で「唯一の戦争被爆国として被爆の実相に対する国際社会の理解を促進してきた」との自負を示した。

 他方、先月末の同委では締約国会議への参加を求められ、態度を明言しなかった。これまでも条約に核保有国が一カ国も参加していないことから「現時点で選択肢にない」などと発言しており、不参加の見通しだ。

 北朝鮮が核・ミサイル開発を加速させ、中国が台湾を巡って核戦力増強を進める中、日本政府は米国の「核の傘」への依存を強める。その同盟国が反対する条約と距離を置きながら、先の日米首脳会談ではバイデン大統領と「核兵器のない世界」を目指すと誓い合った。ウクライナに侵攻し核使用をちらつかせるロシアへの対応は先進7カ国(G7)の枠組みを重視する。

 首相にとって非人道性会議参加は安全保障を重視しながら、核なき世界を追求する姿勢を示す「苦肉の策」のようだ。

 しかし、同じく米国の核抑止力を基盤とする北大西洋条約機構(NATO)加盟国から影響力の強いドイツや、核の非人道性に警鐘を鳴らしてきたノルウェーが締約国会議へのオブザーバー参加を決めた。「NATOと会議参加は必ずしも矛盾しない」との立場を示している。

 NATO加盟を先月申請したフィンランドとスウェーデンも参加を表明しており、核軍縮議論の活発化が期待される。その場に日本がいないことの方が不自然ではないか。

 首相はかねて、条約について「核兵器のない世界への『出口』となる大変重要な条約だ」との認識を示し、核保有国を条約に近づけていくのが日本の役割との考えを示している。

 ならば条約批准国との協調にも心を配るべきである。核廃絶という共通目標に向けた対話は可能なはずだ。核保有国が参加する核拡散防止条約(NPT)と核禁条約の溝をいかに埋めていくか、議論を深めたい。

 非人道性会議が締約国会議に合わせて設定されたのは、日本のような立場の国を考えてのことだろう。首相はおとといの参院予算委で「議論に参加することが重要だ」とも述べた。締約国会議へのオブザーバー参加の決断を求める。

(2022年6月5日朝刊掲載)

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