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社説・コラム

『ひと・とき』 映画監督 原一男さん 水俣病患者の葛藤に迫る

 「行き当たりばったりでカメラを回せばできる映画なんて、認めるわけにはいかない」。水俣病をテーマに、足かけ20年の取材を詰め込んだ労作「水俣曼荼羅(まんだら)」が広島市西区の横川シネマで公開中。舞台あいさつで力説した。

 3部構成、計6時間余りの大長編。あけすけともいえる質問で登場人物の内面に迫るスタイルは、本作にも一貫している。例えば、胎児性水俣病患者の女性が浮かべた涙から、涙の理由を問い、重ねてきた失恋の数々をカメラの前で語ってもらう。恋の相手まで呼び出して、浴びせる質問はまたも容赦ない。

 「自由な行動がままならない彼女にとって、恋の相手は『外の世界』そのもの。恋をしている間は、世界と一体化する大切な時間なんです。『恋多き女』なんて言葉で分かったふりはできない」

 「神軍平等兵」を名乗って戦争責任を追及し続ける男を追った「ゆきゆきて、神軍」(1987年)で名高い鬼才。「心の中の葛藤に徹底的に迫ってこそドキュメンタリー映画」との信念は揺るがない。(道面雅量)

(2022年6月4日朝刊掲載)

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