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連載・特集

緑地帯 村上満志 バス弾きのつぶやき⑥

 東京都交響楽団で演奏活動を続けながら昭和音楽大学、愛知県立芸術大学、名古屋音楽大学でコントラバスの講師を務めた。愛知県立芸術大学ではオーケストラの授業にも参加し、そこで指揮をされていたのが客員教授の外山雄三先生だった。先生は当時仙台フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督でもあり、その縁で2001年4月から、27年間在籍した都響を離れ、仙台フィルでの演奏が始まった。

 ドイツ留学から帰って演奏活動を続ける中で、常に自分の中にあったのは「聴衆と共にある音楽文化」という命題だった。

 東京という地域性を持たない巨大都市から、一つのコミュニティーとして成立している街、仙台で演奏活動ができることで、地域の人々とより密接な関係で音楽を共有できることに大きな期待を抱いていた。お客さまとは、名前は分からなくとも「見慣れた人どうし」の関係がつくれ、聴いてくださる方の「非日常の喜び」としてオーケストラの演奏があるという関係をつくりたかった。

 仙台フィルにはコントラバス奏者として12年、オーケストラを運営する立場で4年、合わせて16年間お世話になった。音楽を愛する方を少しでも増やすために、定期演奏会では開演前のロビーコンサート、指揮者のプレトーク、そして何よりもオーケストラメンバーに聴衆へ音楽を語りかける意識を持ってもらうことを心掛けた。

 「聴衆と共にある音楽文化」は仙台に限ったことではなく、そうした伝統をもたない日本の音楽文化の大きな命題である。(東京混声合唱団参与=広島市出身)

(2022年6月7日朝刊掲載)

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