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社説・コラム

社説 骨太方針 岸田カラーどこ行った

 自民党内に強い影響力を持つ大物に配慮した挙げ句、岸田文雄首相の目指す財政健全化は骨抜きになったのではないか。政府がおととい決めた経済財政運営の指針「骨太方針」である。

 方針は来年度の予算編成の大枠と財政規律の方向性を示すものだ。岸田政権で初めての取りまとめである。新型コロナウイルス禍で経済が傷む状況では財政出動を優先する一方、中長期的な財政健全化への布石をいかに打つか、重要な局面である。

 ところが、安倍晋三元首相ら積極財政派の要求で政府案が修正を余儀なくされる異例の展開をたどった。その結果、財政健全化の姿勢は後退し、ロシアのウクライナ侵攻で増額論が浮上した防衛費は5年後の倍増をうたう。歳出拡大に歯止めがかかりそうもない書きぶりである。

 先の日米首脳会談で首相が「相当な増額」と言及した防衛費は、5年以内と期限を定めて「防衛力を抜本的に強化する」と表記された。政府案にはなかった文言だ。

 その上で「国内総生産(GDP)比2%以上」が北大西洋条約機構(NATO)加盟国の目標になっているとの例示も、注釈から本文に格上げされた。

 歴代政権がGDP比1%という水準を保ってきた防衛費の大幅増を求める自民党内の声が、色濃く反映されたといえる。

 日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している点は否定しない。だからといって「枠ありき」と突き進むやり方は乱暴だ。専守防衛との整合性などを徹底的に議論し、国民に説明することが求められる。

 財政運営に関しても、財政健全化の達成時期が明示されなかった。

 政府は、国と地方の基礎的財政収支を2025年度に黒字化する目標を掲げる。基礎的財政収支は社会保障や公共事業といった政策的な経費を借金に頼らず、税収などの財源でどの程度賄えるかを示す指標だ。従来の方針は目標を「堅持」してきたが、「これまでの財政健全化目標に取り組む」と後退させた。

 もともと目標達成には高い経済成長と歳出改革が必要だった。現実的に到達が難しかったことを踏まえれば、財政規律の緩みが心配される。

 さらに「経済・財政一体改革を着実に推進する」の表記に対し、安倍氏らが防衛費の抑制につながりかねないと反発。削除を求めたとされる。

 財政健全化の旗を守りたい首相は、この一文に最後までこだわったという。調整の末、「重要な政策の選択肢を狭めることがあってはならない」と加筆され、歳出拡大の余地を残した。

 政権基盤を安定させるため、党内最大派閥を率いる安倍氏に配慮せざるを得ない事情はあるにせよ、これでは言いなりに近い。首相が成長と並べて唱える分配政策に踏み込めなかったのも同じ構図だろう。

 一方で方針には裏付けとなる財源への言及がほぼない。安倍氏は「(防衛費の)増額は国債で対応すればいい」と唱える。国と地方を合わせた借金の残高が1200兆円に上る現実を直視しない物言いではないか。

 将来世代へのつけを一方的に積み上げるのは無責任だ。来たる参院選の自民党公約で、首相は持続可能な財政への道筋を示す必要がある。

(2022年6月9日朝刊掲載)

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