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連載・特集

緑地帯 村上満志 バス弾きのつぶやき⑦

 2011年3月11日、東日本大震災の惨状は仙台フィルメンバーにも及んだ。ライフラインも公共交通機関も途絶える中、徒歩でオーケストラ事務局に集まり、演奏する団体として何をするべきかを話し合った。そして、震災から約2週間後の3月26日に、仙台フィルの理事で僧籍を持つ方の寺院ホールでコンサートを開催するという答えを出した。

 通りに貼ったお知らせで集まった聴衆は、オーケストラが紡ぎだす音に促されて皆が涙することを許された。あまりの極限状態で涙を流すことさえできなかった人々が心を解き放たれた瞬間だった。そのとき私は「音楽の持つ根源的な力」を学んだ。その後、市内の演奏会場がことごとく壊滅状態だったため、仙台フィルは楽器店の店先や商業施設、そして避難所において、少人数の室内楽でボランティアの演奏活動を続けた。

 震災の影響で変則的なオーケストラ運営が続く中、私は12年10月に仙台フィル事務局からオーケストラの運営を担ってほしいとの要請を受けた。40年近くコントラバス奏者として演奏活動をさせてもらった音楽界に少しでも恩返しができればとの思いで、その要請を受け入れた。

 仙台フィル事務局での仕事は常に「聴衆と共にある音楽文化」を判断基準にして務めた。そして、そろそろ仙台フィル事務局の仕事を次の人に委ねて、昔のように結果を求められることなくコントラバスを弾いていようと思っていたら、予想もしない東京混声合唱団から事務局長の要請を受けた。(東京混声合唱団参与=広島市出身)

(2022年6月9日朝刊掲載)

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