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連載・特集

緑地帯 村上満志 バス弾きのつぶやき⑧

 同じ日本の音楽の世界ながらオーケストラ界と合唱界では大きな隔たりがある。日本オーケストラ連盟に名前を連ねる団体は25を数える一方、合唱界にはそもそも各団体がつながる組織もないし、定期的な公演を続けるプロの団体はごく少数である。

 そのような状況の中で、東京混声合唱団(東混)が合唱のカリスマ田中信昭によって創立されてから66年の歴史を積み重ねたことは「奇跡」に近いことだった。それだけに新参者の事務局長だった私は、ある時は果敢に、そしてまたある時は臆病に団体の運営にあたってきた。

 今年8月3日に広島市中区のJMSアステールプラザで開催する「東混八月のまつりin広島」は、まさに東混の伝統が凝縮されたコンサートである。

 東混は作曲家林光の無伴奏合唱組曲「原爆小景」を1980年から42年間にわたって歌い継いできた。被爆作家原民喜の詩を基にしたこの組曲の最終章「永遠のみどり」は、完成するまでにいろいろな変遷をたどった。民喜の詩「ヒロシマのデルタに若葉うずまけ」を前に、林光は「核の恐怖がなにひとつ解決していない今、作曲することが可能だろうか」と作曲の筆を進めることができなかった。「原爆小景」が現在の形になったのは2001年のことだった。

 18年の「東混八月のまつり№39」で自らが被爆2世であることを語った指揮者山下一史と「原爆小景」を広島の地で17年ぶりに東混が歌うことに、大きな期待と責任を感じている。(東京混声合唱団参与=広島市出身)=おわり

(2022年6月9日朝刊掲載)

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