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連載・特集

大竹市の針路 市長選を前に <下> やまぬ騒音

米軍への要望届かず

防音工事補助求める声

 ゴーッという爆音がしょっちゅう響く。約240人が暮らす大竹市の離島・阿多田島。米軍岩国基地(岩国市)の北東約6キロにあり、基地を飛び立つ米軍機の飛行ルート直下にある。「早朝から米軍機のけたたましい音がして目覚めた」「テレビの音や会話が聞き取れない」―。島民からはそんな声が漏れる。

 中国四国防衛局によると、2021年度は阿多田島漁協に設置した測定器で「騒がしい街頭」に相当する70デシベル以上を5153回記録した。20年度の3932回から約3割増加。岩国基地への空母艦載機の移転が完了する前の17年度の2・2倍になった。島で海上釣り堀を営む宮下后(こう)さん(45)は「釣り客が音の大きさと回数に驚いている。複数の米軍機が来ると楽しそうに過ごしていた家族連れもしばらく会話ができなくなる」とこぼす。

対象は既存住宅

 Uターンして19年から阿多田島郵便局長を務める谷貴俊さん(36)は「騒音はひどくなる一方」と、新築している家の窓を防音のため2重サッシにすると決めた。島は全域が国の住宅防音工事の助成対象のうるささ指数(W値)75以上の第1種区域。補助が受けられると思っていたが、対象は既存の住宅だけだった。

 「なぜ新築は対象外なのか、騒音に耐えているのに納得できない」と谷さん。独自の補助制度を設置するよう市に求める。市は、補助制度の拡充を国に求めているが、独自制度創設の予定はない。

 騒音は対岸の市街地でも増加している。西栄のサントピア大竹の測定器は21年度929回を記録し、20年度の131回から約7倍になった。ロシアがウクライナに軍事侵攻した今年2月以降は頻度が高まっているとの指摘もある。

 騒音増加に関係するとみられる岩国基地への米空母艦載機移転は、市が06年末に容認を決めた。それまでは廿日市市など4市や住民団体と岩国基地増強計画反対県連絡会議を組織して移転に異を唱えていたが、「容認した方が具体的な交渉に入れる」と方針転換した経緯がある。

県境越え連携を

 財政面での恩恵はあった。在日米軍再編への協力度合いに応じた交付金を県内の自治体では唯一、07年度から受け取る。21年度までの総額は約60億円。市は「人口減少などで市税収入が落ち込む中、貴重な財源になっている」とする。一方、市は毎月、騒音のデータと住民の声を記した記録簿を中国四国防衛局岩国防衛事務所に提出。米軍に騒音への配慮を働きかけるよう求めているが、改善の兆しはない。

 基地の機能強化が進む中で減らぬ騒音。市は、対策を引き続き粘り強く国などに働きかけていくとしている。独自の防音対策を検討したり、実効性のある国、米軍の対応を引き出すため、県境を越えて自治体、関係者と連携する新たな枠組みづくりを探ったりする時期に差しかかっている。(長部剛)

(2022年6月11日朝刊掲載)

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