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連載・特集

核兵器禁止条約 締約国会議を前に <2> ICAN(アイキャン)国際運営委員 川崎哲さん(53)

「核には核を」転換の時

政府の「橋渡し」に矛盾

  ≪核兵器禁止条約第1回締約国会議は、新型コロナウイルスの感染拡大による5カ月の延期を経て開かれる。この間、ウクライナに侵攻したロシアは核兵器の使用を示唆。その脅威に呼応するように核兵器に頼る動きが世界で広がる。≫
 ロシアが核兵器で脅す一方、北欧のフィンランドとスウェーデンは5月、欧米の「核同盟」である北大西洋条約機構(NATO)に加盟を申請した。「核には核を」との流れを止め、廃絶に切り替える必要がある。その手段となるのが核兵器禁止条約で、第1回の会議はとても重要だ。

 会議では、核兵器の非人道性とリスクが論点の一つとなる。核兵器使用の危険性をはらむウクライナでの戦争を強く意識した形で警告が発せられるだろう。核兵器を持つ国が条約に入った場合の廃棄の過程について議論が進む見込みで、まずは廃棄の期限が定まる。締約国を増やすための取り組みも話し合う。

 核兵器の使用や実験による被害者への援助と環境の修復も重要議題だ。国が設定した区域外の「黒い雨」被害者や在外被爆者を援護の対象外としていた日本の歴史が示すように、被害者の切り捨ては起こり得る。性別や年齢、先住民であることなどを理由に差別せず、多様な被害者を援助するための原則の確認が大切だ。また、条約の運用を話し合うための組織をつくることにも合意してほしい。

  ≪締約国会議に合わせ、日本からは被爆者たちが現地を訪れ、被爆の実態や核兵器廃絶を訴える。≫
 「核兵器は許されない」と誰よりも説得力を持って訴えられるのが、被害を直接受けた人たちだ。話し手の表情や熱量が持つ力は非常に大きく、聴く人の想像力にスイッチが入る。世界の若者が、被爆者の声を聴く場が現地で多く設けられれば、核兵器廃絶に向けて活動を長く続ける人たちが各地で増える。いわば、種まきのような効果となる。

  ≪被爆国の日本は、核兵器禁止条約を批准せず、締約国会議のオブザーバー参加もしない。一方、岸田文雄首相(広島1区)は「広島ほど平和へのコミットメントを示すのにふさわしい場所はない」と述べ、先進7カ国首脳会議(G7サミット)の広島開催を決めた。≫
 政府の姿勢には大きな矛盾がある。確かに、核兵器のない世界を目指すためには保有国の行動が欠かせず、核兵器の非人道性を理解してもらうことも重要だ。ただ、保有国の行動を促すには非保有国の声を大きくする必要もある。保有国と直接対話ができる被爆国の日本には、いずれにもしっかり取り組むことが求められている。それが、保有国と非保有国の「橋渡し」役を果たすことだ。

 核兵器の廃棄や被害者の援助を巡り、具体的な取り組みを話す段階が訪れた今、被爆国が貢献できることは少なくない。日本がオブザーバー参加するという岸田首相の政治決断を会議当日の朝まで待っている。決断を促すため、岸田首相を選出した広島の皆さんも声を上げ続けてほしい。(小林可奈)

かわさき・あきら
 1968年東京生まれ。東京大卒。非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)では、副代表や共同代表などを歴任。NGOピースボート共同代表も務める。

保有国と非保有国に溝

 核兵器禁止条約がつくられた背景には、核軍縮の停滞があった。1970年に発効した核拡散防止条約(NPT)は核兵器保有国に軍縮努力を課しているが、保有国は核戦力の近代化などを進めて逆行した。前回の2015年のNPT再検討会議は決裂し、非保有国が主導して禁止条約を制定する動きが活発になった。

 17年の条約制定に大きく貢献したのが、川崎氏が国際運営委員を務めるICAN(本部スイス・ジュネーブ)。100を超える国のNGOで組織し、同年にノーベル平和賞を受賞した。ICANは核兵器保有国を抜きにしても条約化を急ぐよう各国政府を説得。各国で市民討論会を開くなどして啓発を続けた。現在の条約批准は62カ国・地域。

 ただ、日本をはじめ核抑止力に頼る国々は参加していない。日本は17年の条約の交渉会議にも参加しなかった。保有国は「核軍縮の役には立たずNPT体制を害する」「核抑止なしで安全と安定をどう維持するのか」などと条約を批判してきた。条約はNPTを補完し、両立できると主張する国もあるが、保有国が参加する兆しは見えない。 (久保田剛)

(2022年6月16日朝刊掲載)

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