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社説・コラム

社説 通常国会閉幕 野党のふがいなさ憂う

 岸田文雄首相が就任後、初めて迎えた通常国会はきのう、波乱のないまま閉幕した。22日公示に決まった参院選は事実上、選挙戦のスタートを切った。

 昨年の衆院選に勝利した政権の真価が問われる150日間だったが、一貫して政府・与党ペースで進んだといえよう。

 戦後2番目の早さで衆院を通過した2022年度予算に続き、物価高対策を名目にした新年度早々の補正予算も順調に通した。政府が新規に提出した61法案は26年ぶりに100%成立し、強行採決は一度もなかった。閉会を受けた記者会見で、首相は「円滑な国会運営に協力いただいた与野党に感謝する」と余裕の口ぶりだった。

 参院選を前に野党と全面対決する法案は避けたとはいえ、政府・与党の国会戦術は「完勝」に近い。通常国会中に下がることの多かった内閣支持率も好調のまま推移し、首相は選挙戦への自信を深めたに違いない。

 しかし会期中に厳しさを増した国民生活を考えても、明らかに論戦は物足りなかった。

 ロシアのウクライナ侵攻や急激な円安に伴う物価高はエスカレートしている。首相が唱える「新しい資本主義」が国民の暮らしをどう変えるのかは一向に見えない。一方で防衛費の大幅増を唐突に打ち出し、首相が国会より先にバイデン米大統領に「約束」する始末である。

 本来なら野党が手ぐすね引いて問いただすべき数々の問題について、質疑は生煮えに終わった感がある。首相も安全運転に徹して踏み込まず、時に歯切れの悪い答弁にとどまった。

 国会のチェック機能を果たせたとは思えない。原因はひとえに野党のふがいなさにあろう。とりわけ立憲民主党である。目の前の議案に加え、政府側の不手際を厳しくただして審議拒否も辞さない国会戦術より、対案を示して論じる「提案型」を心掛けたようだ。結果的に矛先が鈍った側面はなかろうか。

 国民民主党が会期中、自党のスタンスを変えたことも極めて分かりにくい。支持基盤が一定に共通する立憲民主とは距離を置いて与党に急接近して予算、補正予算とも賛成に回った。政権与党の補完勢力になったと言われても仕方あるまい。

 国会終盤に見せ場をつくろうとしたのか。立憲民主が出した内閣不信任決議案も、共産党と社民党の賛同を得ただけで不発に終わった。日本維新の会と国民民主が反対に回ったことで野党分断を浮き彫りにした。

 参院選が思いやられる。政権与党と向き合い、政策の受け皿を用意して国政選挙に臨む―。その野党の役割をもう一度、自覚してもらいたい。

 与野党で責任を持って解決すべき懸案が、相次いで先送りされたことも見過ごせない。

 選挙違反で当選無効になった国会議員に歳費返還を義務付ける法改正もそうだ。加えて議員に月額100万円を支給する調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)についても見直し協議が途中で放置された。支給を月割りから日割りに切り替え、名称を変えて使途を拡大しただけに終わり、肝心の使途公開などには手を付けなかった。

 自分たちの待遇に関する改革を後回しにすれば国会全体への不信感が募るばかりだ。国民をばかにしてもらっては困る。

(2022年6月16日朝刊掲載)

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