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未完の青春 被爆死画学生の絵 「無言館」窪島さん 広島の学生と対談 「ひたむきな思い感じて」

 戦没画学生らの遺作を所蔵する美術館「無言館」(長野県上田市)の館主窪島誠一郎さん(80)が今月上旬、尾道市瀬戸田町の平山郁夫美術館を訪れ、広島の学生たちと対談した。原爆で亡くなった2人の若者が残した絵画を巡り、「描きたいから描く。絵に懸けたひたむきな思いを感じ取ってほしい」と語り掛けた。(福田彩乃)

 窪島さんは、平山郁夫美術館で開催中の企画展「ふたりの被爆画学生展」に合わせて来館。同展は無言館の所蔵作品のうち、手島守之輔さん(1914~45年)と伊藤守正さん(1923~46年)の風景画や人物画など計28点を紹介している。竹原市出身の手島さんは広島で、東京出身の伊藤さんは長崎で被爆し亡くなった。

 対談には、平山郁夫美術館の呼び掛けに応えた広島大の5人と尾道市立大の3人が参加。窪島さんと会場を回り、感想などを語り合った。

 学生が印象に残った絵として挙げたのは、手島さんの「女性の顔」。女性の柔和な表情を素朴な筆致で描く。広島大4年の田原佑太朗さん(22)は「女性画の中で一番気持ちがこもっている」と率直な感想を寄せた。

 窪島さんは「画家がもう少し描き加えたかった作品ではないか。未完の青春という印象がある」と応じた。所蔵品は暗い絵ばかりと思われがちだが「赤紙を受け取った画学生らは残されたわずかな時間で、ただ愛するものを描いた」と力を込めた。

 尾道市立大3年で日本画を学ぶ栩平(とちひら)詩乃さん(21)は、神社仏閣を好んでいた伊藤さんの作品「伐折羅(ばさら)大将」に触れ、「思い入れのある場所や物を描いた姿は、現代の私たちと変わらない」と受け止める。

 専門的な美術教育を満足に受けられないまま亡くなった学生らの絵には、未熟な面もある。しかし窪島さんは「彼らの絵からは、もっと描きたいという強烈な声が聞こえる」とし、絵が伝えるのは悲壮感よりも「表現者としての本能やひたむきさだ」と強調した。「おまえはこれまでどう生きてきたのかと、絵に問われている気がする」と言う。

 1997年に開館した無言館は今年で25周年になる。館名の「無言」には、黙したままメッセージを発する絵と、絵に相対して黙するしかない鑑賞者という二つの意味がある。

 会場の平山郁夫美術館も97年の開館。主に平山さんの画業を紹介している。平山さんは15歳の時に広島で被爆。創作の根幹には平和への願いがあった。平山さんと画学生らの思いが、時を超えて響き合う。

 「ふたりの被爆画学生展」は同館と中国新聞備後本社の主催。7月22日まで。会期中無休。

(2022年6月16日朝刊掲載)

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