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連載・特集

緑地帯 丸古玲子 呉本こぼれ話①

 呉市出身、現在は東京でフリーライターを生業(なりわい)としている。企業人や芸能人へのインタビューを多く手掛けたせいか、2018年発刊の「呉本~海軍、空襲、大和。ふるさと11人のインタビュー」も、相づちや感嘆の声を活(い)かした対話形式となった。狙ったのではない、私にはこれが最善であり、この書き方しかできないのだった。ところがふたを開けてみると功を奏したらしく、「一緒に話を聞いているよう」「住んでいながら知らなかった呉を知った」「呉弁がおもしろい」との好評をいただけた。

 高校卒業後の18歳で呉を飛び出し、東京に棲(す)みつき、帰省先でしかなかった呉をなぜ調べようと思ったか。問われるたびにうまく答えられないでいる。ぶっちゃけてしまえば、原動力は、映画「この世界の片隅に」により呉がにわかに囃(はや)され始めたことへの嫉妬と、呉出身なのに呉のことを何も知らない自分へのショックである。

 ちっとも「郷土愛が成せるふるさと本」ではなくて恥ずかしい。自費出版にしたのも「各所に忖度(そんたく)しつつ売れる本を書け」と檻(おり)に放り込まれるのが嫌だったから。個人が立ち上げる出版者は「者」の字で表記する。私は「ちょうちょ人間」と名づけた。幼少期にいたずら描きしていた架空の生き物である。ちょうちょの羽根から人間の手足が生えているこの子は、羽根がありながらそれをバッサバッサ鳴らして地べたをテクテク歩く。一歩、そして一歩。なんとまあ、私のまんまである。(まるこ・れいこ ライター=呉市出身)

(2022年6月10日朝刊掲載)

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