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連載・特集

緑地帯 丸古玲子 呉本こぼれ話③

 初代「呉本」と「呉本に」の間に、2020年「江田島本~伝統はだれが作る。伝統、伝承、伝説の島」を発刊。島をザリガニに見立て、文中で「右の爪の付け根あたり」「見事な尾っぽのところ」などと地理を説明したら、「わかりやすい」とのお褒めにあずかった。

 本書に私は「メロンパン」のことを少しだけ記した。呉民なら周知のあのパン屋さん。戦前から続くのだそうだ。その店のパンは子どもの頃から普通に家にあって、高校生になると島から船で通う友人が「桟橋に売っとるけえ」と普通に昼食として買って来ており、購買には並んでないから私には買えず無性に羨(うらや)ましかった、という記憶を書いたのだ。ウチはナナパンが好き、ウチはシンプルにコッペパン。メロンパンもええよ食べきるのに3日はかかるけど、うそじゃ玲子ちゃんは食べるんが遅いけえ。通学のバス中で語り合うほど呉民の生活に密着。ミルクパンはそのままも美味(おい)しく蜂蜜もよく似合う。ずっしりこしあんパンは真夏の昼寝から目覚めて頰に畳の筋の跡をつけたまま汗だくで食べると最高であることを発見した。

 私の推しパンは平和パンだ。柔らかなカステラと甘いジャムがパン生地に馴染(なじ)んでたまらない。ふと、種類豊富な「メロンパン」のパンのうち、平和パンだけネーミングの質が違う、と気づいた。機会がありお店の方に尋ねると、「広島のパンで、長崎のカステラを包んだのでしょうか。戦後に先代が作りました」。見れば包装袋には鳩(はと)が飛んでいる。ああ、そうだったのか。「初めて知る衝撃」が、呉にはまだまだある。(ライター=呉市出身)

(2022年6月14日朝刊掲載)

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