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連載・特集

緑地帯 丸古玲子 呉本こぼれ話⑥

 「呉本に」の取材で大田實海軍中将ゆかりの「静観邸」を知り、呉駅から向こう側をほとんど初めて歩いた。上畑町に生まれ呉宮原高に進んだ私は、呉駅から西側にとんと縁が無かったのだ。

 取材時は詳しい方と歩いたが、それ以前に一度自力でチャレンジした。だいたいの方角であてずっぽうに階段を昇り降りする。急角度や入り組み方が半端じゃない。この家どうやって建てたんだろう? 木材も瓦も煉瓦(れんが)も人の手で運んだのかな? 人間ってすごい。

 結構粘ったが静観邸は見つからず、諦めた。私にもう少し体力があれば行けたのに。なぜなら呉の道は全部つながっていて迷子にならないから。根拠はないが確信。

 「道で玲子を放ったら回収するのが大変じゃ」と幼少期は祖父を困らせていたそうだ。それでも私は必ず見つかり、祖父は無事に私を回収した。呉の道がつながっている証拠である。私見だけれど。

 人体に張り巡らされる血管のようにくねくねと、人の家の庭だろうが畑だろうがお構いなしにのびのび伸びる呉の細い路地たちを、私は「野良猫道」と心で呼ぶ。子どもの頃は学校帰りの毎日が冒険だった。こっちの道を行くとあっちから出てきたから笑い転げた。階段状にびっしり建つ家々は、山肌から生えるしめじみたいだ。

 大人になって呉の野良猫道を歩いていると、これが呉の人と人とのつながりの象徴なんだと思えた。どんな急こう配にも川沿いにも人の家の裏庭にも道は食い込み、必ず抜けられ、必ず進める。郷土の歴史もきっと同じだ。人々の道々に郷土史は広がり在るのだ。(ライター=呉市出身)

(2022年6月17日朝刊掲載)

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