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社説・コラム

社説 核禁条約 初の会議 逆風つき 廃絶の道開け

 核兵器禁止条約の第1回締約国会議が、あすから3日間、ウィーンで開かれる。コロナ禍で2度延期され、ようやく開催にこぎ着けたものの、核廃絶には強い逆風が吹いている。

 ロシアによるウクライナ侵攻や、核兵器使用で威嚇するプーチン大統領といった保有国の傍若無人な振る舞いが原因だ。

 核兵器が使われるリスクは冷戦以降、最も高まっている―。世界の核弾頭数を毎年推計しているストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が先週、警告を発したほど危機感は強い。

 人類の存続がかかっているとさえ言えそうだ。逆風をつき、「核なき世界」への道筋を切り開く役割が、会議参加者には求められる。日本政府は今も背を向けているが、広島、長崎からは両市長や被爆者、若者らが現地入りし、核兵器廃絶の必要性を訴える。実現を目指して、充実した議論を展開してほしい。

 核兵器を全面的に違法化する禁止条約は、被爆者をはじめ広島、長崎による長年の訴えが結実した内容だ。核兵器の使用や実験による被害者支援、汚染された地域の環境改善も義務付けている。広島、長崎が培ってきた医療・科学的知見やノウハウを生かせるに違いない。

 条約は2017年7月に採択され、21年1月に発効した。批准した国・地域は62に上る。

 条約の壁になっているのは、九つの核兵器保有国が全て、そっぽを向いていることだ。日本をはじめ、「核の傘」の下にある国にも消極的姿勢が目立つ。

 とはいえ、「傘」の下は同じでも、オブザーバー参加する国もある。ドイツ、ノルウェー、オランダといった北大西洋条約機構(NATO)加盟国やオーストラリアなどである。

 どの国も、国民や地域、ひいては地球全体の安全を真剣に考えて決断したのだろう。抑止論という「核の傘」には脆弱(ぜいじゃく)な面があるからだ。敵対する国に負けない武器を持てば、相手は攻撃を思いとどまるとの期待に基づくが、どれだけ効果があるのか。相手国の指導者が理性的な判断ができなければ、人類自滅の引き金を引きかねない。

 そもそも核兵器が存在する限り、さまざまなリスクがつきまとう。人為ミスによる誤発射や偶発事故、テロリスト集団による核兵器奪取…。こうした危機は何度もあったが、人類はたまたま生き延びてきた。つまりは幸運だったからに過ぎない。

 SIPRIは、こんな警鐘も鳴らす。世界の核弾頭の在庫が冷戦後初めて増加に転じる可能性がある、と。身勝手な保有国はロシアだけではないからだ。米国や中国も小型核開発に乗り出し、英国は核弾頭数の上限引き上げ方針を表明している。

 やはり核兵器の全面的な廃絶が急務である。国連のグテレス事務総長も、そう強調する。その上で、核なき世界に向け前進するためのリーダーシップを日本に期待している。核廃絶をライフワークに掲げる岸田文雄首相への注文だと言えよう。

 ところが、対応は心もとない。今回もオブザーバー参加すらせず、国際社会の失望を招いた。来年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)の広島開催を決めただけで満足している場合ではない。全ての保有国に核軍縮を迫るなど、廃絶への決意を行動で示さねばならない。

(2022年6月20日朝刊掲載)

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